HSP(Highly Sensitive Person)は、米国の心理学者エレイン・アーロンらが1990年代に提唱した、「感覚処理感受性(sensory processing sensitivity)」という気質特性が相対的に高い人を指す通称です。刺激を深く処理し、環境の影響を受けやすいという個人差を記述するための研究上の概念であり、医学的な診断名ではありません。

研究でわかっていること

原典とされるのは、アーロン夫妻が1997年に発表した論文です。7つの調査を通じて27項目の「HSP尺度」を作成し、この特性が内向性や情動性(ネガティブな感情の起こりやすさ)とは部分的に独立した一つの次元として測定できると報告しました(Aron & Aron, 1997)。

その後の研究を整理した2019年の批判的レビュー(Greven et al.)では、感覚処理感受性は遺伝の影響を受ける連続的な特性であり、ストレスの多い環境で不調につながりやすい一方、支援的な環境からはより大きな恩恵を受けやすい——つまり「悪い環境にもよい環境にも敏感」という「環境感受性」の枠組みで捉える見方が示されています。

わかっていないこと・よくある誤解

まず、HSPはDSMやICDといった診断基準に掲載された疾患名ではなく、医療機関で「HSPかどうか」を診断することはできません。よく知られる「5人に1人」という割合も初期研究に由来する目安であり、感受性が「高い人/そうでない人」に明確に分かれるのか、連続的な性質なのかも研究が続いている段階です。測定が自己報告式の質問紙に依存している点や、他の特性との区別の曖昧さは、前述のレビュー自身が今後の課題として挙げています。

日本では2020年前後に「繊細さん」という言葉とともにHSPが広く知られましたが、その過程で「HSP外来」「HSP専門カウンセラー」など、元の研究から離れた言説やサービスが広がったことに対し、研究者から懸念が示されています(飯村, 2023)。自分の傾向を理解する手がかりとしては有用でも、単一のラベルで生きづらさのすべてを説明できるわけではない——この点を押さえておくことが、この概念と付き合ううえでの出発点になりそうです。