「電話が鳴るたびに心臓がドキッとする」「受話器を取るのが怖い」——この感覚に心当たりのある人は、少なくないのではないでしょうか。
電話対応が苦手なのは、決して「能力が低い」からではありません。音声だけで情報を処理し、相手の感情を読み取り、即座に返答するという電話特有の負荷は、誰にとっても小さくないものです。HSPという通称で知られる感覚処理感受性の研究では、刺激を深く処理し圧倒されやすい傾向が報告されており(Aron & Aron, 1997)、こうした傾向が強い人ほど電話の負荷を重く感じやすいのかもしれません。ただし、この概念の位置づけについては研究者の間で議論が続いているため(Greven et al., 2019)、本記事では「感受性が高い人」という表現を中心に使います。
この記事では、電話対応の苦手意識を和らげ、少しずつ克服していくための具体的なテクニックをご紹介します。
電話が苦手に感じられる5つの理由
音声だけで感情を読み取ろうとする
普段、相手の表情や身振りも含めて総合的にコミュニケーションを取っている人にとって、電話は視覚情報がない特殊な場面です。声のトーンだけで相手の感情を読み取ろうとして、必要以上にエネルギーを使ってしまうという声はよく聞かれます。
即座に返答するプレッシャー
電話は「沈黙=気まずい」という暗黙のルールがあります。深く考えてから返答したいタイプにとって、この即時性のプレッシャーは大きな負担です。
周囲に聞かれている緊張感
オフィスで電話を取ると、周りの同僚に自分の受け答えを聞かれます。「変なことを言っていないか」「敬語は合っているか」と気にしてしまい、余計に緊張が高まります。
予測できない展開への不安
電話は誰から、どんな内容でかかってくるか事前にわかりません。予測できない状況が苦手な人にとって、電話が鳴るたびに不安が走るのは無理もないことです。
相手の感情に巻き込まれる
クレーム対応などで相手が怒っていると、その感情を自分のことのように受け取ってしまう——感受性が高い人からよく聞かれる悩みです。感覚処理感受性のスコアが高い人では、他者の感情を示す表情への脳の反応が強かったと報告する小規模なfMRI研究もありますが(Acevedo et al., 2014)、単一の研究であり、仕組みが解明されているわけではありません。いずれにせよ、電話を切った後もしばらく引きずってしまうという人は少なくありません。
【事前準備編】電話が鳴る前にできること
自分専用の電話マニュアルを作る
よくある問い合わせのパターンと、それに対する受け答えのテンプレートをノートやメモアプリにまとめておきましょう。
【電話を取るとき】
「お電話ありがとうございます。〇〇社の△△でございます」
【用件を聞くとき】
「恐れ入りますが、ご用件をお伺いしてもよろしいでしょうか」
【取り次ぐとき】
「担当の者に確認いたしますので、少々お待ちいただけますか」
【折り返すとき】
「確認のうえ、折り返しご連絡いたします。お電話番号をお伺いしてもよろしいでしょうか」
マニュアルを作る過程で頭の中が整理されるので、実際の電話でもスムーズに言葉が出てきやすくなります。
メモ用紙を常に手元に置く
電話中は必ずメモを取る習慣をつけましょう。聞いた内容をすべて頭で覚えようとすると、緊張している場面では誰でも混乱しやすくなります。
メモのフォーマットを決めておくとさらに安心です。
- いつ: 日時
- 誰から: 会社名・お名前
- 誰宛: 担当者名
- 何を: 用件の要約
- どうする: 折り返し?対応不要?
深呼吸の習慣をつける
電話が鳴ったら、受話器を取る前に一呼吸入れましょう。たった3秒の深呼吸でも、気持ちが落ち着きやすくなったと感じる人は多いようです。
「電話が鳴る→深呼吸→受話器を取る」をルーティンにすることで、条件反射的な緊張を和らげやすくなります。
【実践編】電話中に使えるテクニック
「復唱」で時間を稼ぐ
相手の言葉を復唱することで、情報を整理する時間を自然に確保できます。
「〇〇の件でございますね」「△△日の□□時ということでよろしいでしょうか」
復唱は正確さの証明にもなるので、むしろ好印象につながることも多いものです。
「確認して折り返します」を使いこなす
即答できない質問には、「確認のうえ折り返しご連絡いたします」と堂々と伝えましょう。これは逃げではなく、正確な情報を伝えるための誠実な対応です。
相手の感情と自分を切り離す
クレーム電話など、相手が感情的になっている場合は、「この怒りは私個人に向けられたものではない」と心の中で唱えてみてください。
共感が強く働きやすい人ほど、相手の感情を自分のものとして受け取りがちです。意識的に境界線を引く練習をすることで、少しずつ楽になっていくかもしれません。
【アフターケア編】電話の後にすること
すぐに次の作業に移らない
電話対応の後は、緊張の余韻で気持ちが高ぶった状態になりがちです。可能であれば1〜2分ほどぼんやりする時間を取りましょう。水を飲む、窓の外を眺める、といった小さなリセット行動を試してみてください。
「うまくいった部分」に目を向ける
失敗したところばかり気にしてしまう人は、「ちゃんと用件を聞き取れた」「折り返しの約束ができた」など、できたことに意識を向ける練習をしてみてください。
電話対応の回数を記録する
「今日は3本対応できた」と記録するだけで、少しずつ自信がついてきます。数字は客観的な成長の証拠になります。
職場のストレス全般について悩んでいる方は、「HSPが仕事を続けられない理由と環境の選び方」もあわせてご覧ください。また、気を遣いすぎて疲れてしまう方には「HSPが職場で気を遣いすぎるときの対処法」もおすすめです。
電話を減らす工夫も大切
克服する努力と同時に、電話の負担自体を減らす工夫をすることも大切です。
- 社内のやり取りはチャットツール(Slack、Teamsなど)を提案する
- 電話対応の当番制を提案する
- メールやフォームで対応できる問い合わせは、そちらに誘導する
「電話が苦手だから減らしたい」のではなく、「業務効率化のため」という切り口で提案すると、受け入れられやすくなります。
よくある質問(FAQ)
Q. 感受性が高いと、どうしても電話に慣れませんか?
完全に苦手意識がなくなることは少ないかもしれませんが、準備と経験を重ねることで、楽になっていく人が多いようです。「苦手なりにできている」という状態を目指すのが現実的です。
Q. 電話対応が少ない仕事に転職したほうがいいですか?
電話対応のストレスが心身に大きな影響を与えているなら、環境を変えることも選択肢の一つです。ただ、まずは今の職場でできる工夫を試してみてからでも遅くはありません。
Q. 電話中に声が震えてしまいます。対策はありますか?
電話前の深呼吸に加え、最初の一言(挨拶)を声に出して練習しておく方法があります。最初の一言がスムーズに出ると、その後の会話も流れやすくなります。また、少しゆっくりめに話すことを意識するだけでも、震えが目立ちにくくなります。
Q. 電話対応の練習方法はありますか?
信頼できる同僚や友人に協力してもらい、ロールプレイをする方法があります。また、自分の声をスマートフォンで録音して聞き返すと、客観的に改善点が見つかりやすくなります。最初は恥ずかしいかもしれませんが、上達への近道になるはずです。
編集後記:本記事は2026年7月11日、ShyBaseの出典主義への方針改定にともない、科学的な記述の出典整理を行いました。