「感情の起伏が激しいよね」。この一言は、たいてい褒め言葉として使われない。言われた側は、自分のどこを直せばいいのかわからないまま、とりあえず反省だけして帰る——そういう構図になりやすい。

というのも、この言葉が何を指しているのかが、そもそもはっきりしていないからだ。感情の研究は、ここを何十年もかけて分解してきた。分解された姿を見ると、「起伏が激しい」の中には少なくとも三つか四つ、別々のものが同居していることがわかる。

同じ「波」でも、指しているものが違う

「起伏」は一つの現象ではなく、四つの別々の測り方

日常語の「起伏が激しい」が混ぜているものを、研究の用語で並べ直すとこうなる。

  • 強度(intensity) — 一回一回の感情が、どれくらい強く体験されるか
  • 変動性(variability) — 一定期間のなかで感情がどれだけ散らばるか。個人内の標準偏差で測る
  • 不安定性(instability) — 連続する時点のあいだで感情がどれだけ大きく振れるか
  • 慣性(inertia) — いまの感情状態が次の時点にどれだけ持ち越されるか。自己相関で測る

このうち、下の三つが「感情ダイナミクス」と呼ばれる時間的なパターンの指標だ。一つ目の強度や、平均的にどれくらいポジティブ/ネガティブかという水準は、時間軸を持たない静的な捉え方として、研究では区別されている。

私自身、長らくここを混ぜていた。「感情が強い」ことと「感情がころころ変わる」ことは、体感としては同じ「振り回されている感じ」なのに、測ってみると別の量なのだ。ここを分けないと、次の話が読めない。

メタ分析の数字は、思ったより小さい

Houben、Van Den Noortgate、Kuppensが2015年に『Psychological Bulletin』誌で発表したメタ分析は、この分野の見取り図として使いやすい。79本の論文から793個の効果量を集め、参加者は合計11,381人。3レベルメタ分析という手法で、短期的な感情のうつり変わりのパターンと、心理的ウェルビーイングや精神病理との関係を集約している。

結果はこうだった。

指標ウェルビーイングとの相関(ρ̂)
変動性(variability)−.178
不安定性(instability)−.205
慣性(inertia)−.151

いずれも負の相関、つまり感情がより変動し、より不安定で、そしてより慣性が高いほど、心理的ウェルビーイングは低い傾向にある。効果はポジティブ感情よりネガティブ感情のほうで強く出ていた。

ここで見落とせないのが、三行目だ。

慣性が高いとは、いまの感情が次の時点にも残りやすい、つまり引きずりやすいということを指す。その慣性もまた、低いウェルビーイングと結びついていた。

だから著者らが描く不適応の姿は、「大きく振れて、しかもベースラインに戻らない」という組み合わせになる。逆に、健康な側の像はこうだ——振れ幅は小さく、そのうえ前の状態を引きずらない。論文はこれを、サーブを待つテニス選手が小刻みに足を動かして次の球に備えている状態や、立っているあいだ絶えず行っている微調整にたとえている。この「前の状態を引きずらなさ」が、予測できない出来事に応じる余地を生むのかもしれない——というのが著者らの見立てだ(断定はしていない)。

「感情は動かないほうがいい」という素朴な直感が支持されていないのは、この意味においてだ。目指す先は凪ではなく、戻れることのほうにある。

ここで踏みとどまっておきたい限界が三つある。

第一に、相関の大きさは.15〜.21程度で、決して大きくない。「起伏が激しい人はウェルビーイングが低い」と個人を判定できるような強さではないし、この種の関連は、どちらが原因でどちらが結果かを示さない。落ち込みが感情のばらつきを大きくするのか、ばらつきが落ち込みを招くのか、あるいは第三の要因が両方を動かしているのか——集約された相関からは切り分けられない。

第二に、論文はこれらの効果量が必ずしも互いに独立とは限らないと明記している。感情ダイナミクスの各指標は数学的にも経験的にも重なりがあり、さらに平均的な感情の水準は、ダイナミクスのパターンとウェルビーイングの両方に関係しうる。表の三行を三つの別々の発見として読むのは、著者らの但し書きを超えている。

第三に、このメタ分析が扱ったのは直線的な関係だけだ。「低すぎるのも高すぎるのも不適応」というU字型の関係もありうる、と著者らは限界の項で述べているが、同時にそれを確かめるにはさらなる研究が必要だとも書いている。つまり「起伏が小さすぎるのも問題」という話は、この論文が示した結果ではなく、今後の課題として置かれている可能性にすぎない。

感情が強いこと自体は、直すべき欠陥ではない

強度の話に戻る。

感情の強さは、心理学では40年前から個人差の一次元として測られてきた。Larsen、Diener、Emmonsが1986年に用いた感情強度尺度(Affect Intensity Measure)は、感情をどれくらい強く体験するかという特性を40項目で測る質問紙で、短縮版も作られている。イリノイ大学のDiener研究室が公開している解説によれば、これは「感情反応の強さ/弱さの特性」を捉えるために設計されたものだ。

尺度が存在するというのは、そこに測るに値する個人差があると研究者が考えてきた、ということでもある。身長を測る道具があるのと同じ意味で、感情の強さには幅がある。

ここから先は研究というより私の受け取り方だが、強いほうの端にいること自体を欠陥だとは思わない。「感情の起伏が激しい」と言われて傷つくのは、強度の話をされているのに欠陥の指摘として受け取ってしまうからだと思う。強度が高いことと、その感情に振り回されることは、同じではない。分けて考えられるようになると、少しだけ息がしやすくなる。

なお、感情の強さと神経症傾向は近い場所にある概念だが、同じものではない。「神経質」という言葉が実際には複数の個人差を束ねてしまっている話は、「神経質」は何を指す言葉かで別に整理した。

手をつけやすいのは、強さより「粒の細かさ」

では実際に何ができるのか。研究のなかで、比較的介入の余地があるとされているのが感情の分化(emotion differentiation/emotional granularity)という考え方だ。

Kashdan、Barrett、McKnightが2015年に『Current Directions in Psychological Science』誌でまとめたレビューによれば、強い苦痛を経験したとき、感情をより細かく分化して体験している人は、過食や過度の飲酒、攻撃、自傷といった不健康な自己調整の方略に走りにくく、拒絶に対する神経反応も小さく、不安障害や抑うつ障害の重さも軽い傾向が報告されている。

このレビューでいちばん刺さったのは、次の指摘だった。ある人がどれくらい頻繁に、どれくらい強いネガティブ感情を経験しているかを知るだけでは、その人が健康で機能的でいられるかを予測するには足りない。予測を左右するのは、その体験を細かく区別できているかどうかだ、と著者らは書いている。

つまり、強度や頻度は動かしにくいが、粒度のほうは動かせるかもしれない、という話になる。実際、感情の分化を高める心理的介入は心理的問題を減らし、ウェルビーイングを高めうるという示唆があり、その介入の中心にあるのは感情語彙を広げることだと著者らは述べている。

「モヤモヤ」を三語に割る

具体的には、「モヤモヤする」で止めずに、それが焦りなのか、置いていかれる感じなのか、見くびられた悔しさなのかまで割っていく作業になる。三つのうちどれなのかで、次にやることが変わるからだ。

関連して、言葉にすること自体の効果を調べた研究もある。Liebermanらが2007年に『Psychological Science』誌で報告したfMRI研究では、ネガティブな情動を示す画像に対してその情動のラベルを付ける課題を行うと、他の符号化課題と比べて扁桃体などの辺縁系の反応が低下し、右腹外側前頭前野(RVLPFC)の活動が高まることが観察された。

ただし、この課題で参加者がラベルを付けているのは画像に写った情動であって、自分自身の気持ちではない。実験室での単一研究でもある。日常生活で「言葉にすれば楽になる」ことが証明されたという話ではなく、示唆として受け取るのが妥当な範囲だと思う。

書く形で粒度を上げていくやり方は書くことの効果に、怒りという特定の感情の扱いについては怒りの表現にまとめてある。

波を消すのではなく、波の名前を増やす

整理したことをまとめておく。

「感情の起伏が激しい」という指摘は、強度・変動性・不安定性・慣性という別々のものを一語で殴っている。メタ分析が示した相関はいずれも小さく、互いに独立でもなく、因果を語れるものでもない。そのうえで浮かび上がる適応的な像は、大きく振れて引きずったままになる状態ではなく、小さく揺れて、そのつどベースラインに戻っていく動きのほうだった。

私が現実的だと思うのは、次の二つに絞ることだ。

  1. 「揺れないこと」ではなく「戻れること」を見る。さっきの不機嫌を、次の場面まで持ち越していないか。研究が測っている慣性はもっと短い間隔の自己相関だが、日常で自分を眺めるなら、引きずりの長さのほうが振れ幅より観察しやすい
  2. 感情に付ける名前の数を増やす。分化の研究が示唆しているのはこちらで、しかも訓練できるとされている領域だ

夜中に理由もなく落ち込んで、翌朝には嘘のように平気になっている。あの落差を「自分は情緒不安定だ」と一括りにしていた頃より、「これは疲れと、期待外れと、少しの寂しさだった」と三つに割れるようになってからのほうが、翌日の自分に引き渡すものが減った気がしている。これは研究の話ではなく、私の実感にすぎないけれど。

受診の目安:気分の落差で仕事や人間関係に支障が出ている、数日以上続く強い高揚と落ち込みを繰り返している、感情の揺れに伴って自分を傷つける行動が出る、眠れない・食べられない状態が続く——こうした場合は「性格の起伏」の問題として抱え込まず、心療内科・精神科への相談を検討してください。気分の波の背景に医学的な評価が必要な状態があるかどうかは、この記事のような一般的な整理では判断できず、専門家の診察が必要です。厚生労働省のこころの耳には、働く人向けの相談窓口がまとまっています。この記事は研究の整理であって、診断や治療の指示ではありません。

よくある質問(FAQ)

感情の起伏が激しいのは良くないことですか?

79論文・11,381人を対象としたメタ分析では、感情の変動性(ρ̂ = −.178)、不安定性(−.205)、慣性(−.151)のいずれもが心理的ウェルビーイングと負の相関を示しました。ただし相関はいずれも小さく、互いに独立でもなく、因果の方向も示されていません。著者らが描く適応的な姿は「感情が動かないこと」ではなく、振れ幅が小さく、かつ前の状態を引きずらずにベースラインへ戻ることでした。なお「低すぎるのも高すぎるのも問題」というU字型の関係については、著者らはありうる可能性として挙げつつ、この分析では検証していないと明記しています。

「感情が強い」と「感情がころころ変わる」は同じですか?

研究では別の指標として区別されます。強度は一回の感情体験の強さ、変動性は一定期間内のばらつき、不安定性は連続する時点間の振れ幅、慣性は前の状態の持ち越されやすさを指します。体感としては似ていても、測っている量が違います。

感情の強さは生まれつき決まっているのですか?

感情の強さは1980年代から個人差の一次元として質問紙で測られてきましたが、この記事で扱った出典の範囲では、どこまでが生得的でどこからが環境によるものかを示す数字はありません。少なくとも、この記事の出典のなかに強度の高さ自体を症状や欠陥として扱っているものはありません。

感情の起伏を抑えるにはどうすればいいですか?

メタ分析が描く適応的な姿は「揺れないこと」ではなく、振れ幅が小さく、かつ引きずらずに元へ戻ることでした。そして出典の範囲で介入可能性が示唆されているのは、起伏そのものを抑えることではなく感情の分化(粒度)を高めることのほうです。レビューによれば、感情を細かく区別できている人は不健康な自己調整方略に走りにくく、分化を高める心理的介入には心理的問題を減らしウェルビーイングを高めうるという示唆があります。その中心は感情語彙を広げることだとされています。

感情を言葉にすると本当に落ち着くのですか?

2007年のfMRI研究では、ネガティブな情動を示す画像にその情動のラベルを付ける課題で、扁桃体などの辺縁系の反応が低下し、右腹外側前頭前野の活動が高まることが観察されました。ただしこの課題でラベルを付けているのは画像に写った情動であって自分の気持ちではなく、実験室条件での単一研究でもあります。日常生活での効果が確立されたわけではありません。示唆として受け取り、自分に合うかどうかは試しながら判断するのが現実的です。生活に支障が出ている場合は専門機関への相談を優先してください。