蛍光灯がチカチカする会議室に一時間もいると、内容とは関係のないところで、じわじわ疲れてくる。誰も気にしていないその明滅が、自分だけ頭の片隅に居座って離れない——。「HSPあるある」を眺めていると、こういう小さな違和感がずらりと言語化されていて、思わず「わかる」と声が出そうになる。
ただ、その「わかる」がどこから来ているのかは、あるあるリストそのものは教えてくれない。この記事では、ネットでよく語られるHSPあるあるを、心理学でいう感覚処理感受性(sensory processing sensitivity, SPS)の研究と照らし合わせていく。裏づく部分はどこで、言いすぎな部分はどこか。切り分けておくと、あるあるを自分を縛る診断名ではなく、自分を説明する語彙として使えるようになる。
HSPあるある15選——まず「わかる」を棚卸しする
先に、よく見かけるあるあるを並べてみる。あなたの実感と照らしながら読んでほしい。
感覚編
- 蛍光灯のちらつきや強い匂いが、周りより気になる
- 大きな音や雑多なBGMのある場所にいると、早く出たくなる
- タグや素材など、服の肌ざわりが人一倍気になる
- 強い香水やタバコの匂いで、頭が痛くなることがある
- 空腹や気温の変化で、機嫌や集中がぐらつきやすい
感情編
- その場の人の機嫌が、言葉にされる前に伝わってくる
- 映画や物語に深く入り込み、後を引く
- 些細な一言を、家に帰ってからも反芻してしまう
- 誰かが叱られていると、自分ごとのように緊張する
- 人に見られていると、実力が出しにくい
生活編
- 予定を詰め込んだ日の夜は、ぐったりして何もできない
- 一人の時間がないと、じわじわ消耗していく
- 一度に多くの情報が来ると処理落ちする感覚がある
- 同時進行の作業が続くと、頭が飽和して手が止まる
- 締切前や新しい環境で、人より強く緊張する
「半分くらい当てはまる」という人が、たぶん一番多いはずだ。ここが後で効いてくるので覚えておいてほしい。
そもそも感覚処理感受性とは何か
あるあるの背景にあるとされるのが、感覚処理感受性という概念だ。研究の世界では、これを「環境感受性(environmental sensitivity)」という大きな枠組みのなかで捉える見方が有力になっている。SPSを包括的にレビューしたGrevenら(2019年)は、これを「個人差を記述する、遺伝的に受け継がれ、進化的に保存されてきた特性」と位置づけ、その中身を「ネガティブな環境にもポジティブな環境にも、より強く反応する感受性の個人差」と説明している。
ここは誤解されやすいので強調しておきたい。感受性が高いとは「打たれ弱い」という意味ではない。悪い環境で消耗しやすい一方で、良い環境や支援からは人一倍多くを受け取れる——その振れ幅の大きさを指す。名前の由来や定義をもう少し知りたい人は、用語辞典の感覚処理感受性も参照してほしい。
同時に、同じレビューは冷静な留保も並べている。信頼できる客観的な測定法の確立、他の性格特性ときちんと区別すること、神経生物学的なメカニズムの解明——これらはまだ「今後の課題」として残っている、と。感受性を測る尺度としては日本語版(HSPS-J19)も作られているが(髙橋、2016年)、これはあくまで研究用の測定ツールであって、個人を診断・分類するためのものではない。つまりSPSは有望だが、細部はまだ議論の途中だ。俗に言う「HSP」と学術的なSPSがどう違うのかは、HSPの項も合わせて読むと輪郭がつかめる。
あるあるを研究と照合する
「音や光がつらい」「情報量で消耗する」——感受性という物差し
感覚編・生活編のあるあるは、SPSという物差しと比較的よく噛み合う。SPS研究のそもそもの出発点であるAronらの初期研究(1997年)は、感受性の高さが内向性や情動性(感情の動きやすさ)と関連しつつも、それらとは区別できる独自の傾向であることを示した。刺激の量に対する「閾値の低さ」——同じ音量、同じ人混みでも、そこから受け取る負荷が人によって違う、という発想だ。
ただし、ここで一つ線を引いておく。「気になる」という体感と、聴覚過敏や光過敏といった医学的な症状は別物だ。あるあるレベルの敏感さは気質の個人差の話であって、日常に支障が出るほどの過敏さは、また別の枠組みで診るべきもの。両者を混ぜないほうがいい。
「人の感情に影響される」——脳画像研究が示すこと(と、その限界)
感情編で語られる「人の機嫌が伝わってくる」は、あるあるの中でも人気の項目だ。これには、しばしば脳科学の裏づけとして引かれる研究がある。Acevedoら(2014年)のfMRI研究は、SPSの高い人ほど、他者の表情(喜びや悲しみ)を見たときに、島皮質や下前頭回、いわゆるミラーニューロン系とされる領域の活動が強まる傾向を報告した。感覚の統合や共感に関わるとされる領域だ。
魅力的な知見だが、鵜呑みにするのは早い。この研究の参加者はわずか18名で、しかも恋愛関係にある成人という同質性の高い集団に偏っており、測定は自己報告尺度に頼っている。著者自身が結論で限界をはっきり断っている。だから「HSPは脳が違うと証明された」と読むのは行きすぎで、正しくは「そういう傾向を示した小規模な研究が一つある」くらいの受けとめ方が誠実だと思う。共感という働き自体が多面的で一枚岩ではないことは、用語辞典の共感(エンパシー)も参照してほしい。
「刺激が多いと疲れる」「一人の時間で回復」
予定を詰めた日にぐったりする、一人の時間がないと消耗する——この感覚も、感受性の高さと整合的に語れる。受け取る刺激の総量が多ければ、処理にかかるコストも大きくなる、という筋だ。敏感さと疲れやすさの関係をもう少し掘り下げたい人は、HSPが疲れやすい原因とは?で個別に整理している。
正直に言うと、私自身この「なぜか人より早く電池が切れる」感覚に長く名前を持てずにいた。感受性という物差しを知って救われたのは、原因が「意志の弱さ」ではなく「刺激との付き合い方の個人差」に置き換わったことだった。ただし——これは研究が言っていることではなく、私の受け取り方の話だ。
「敏感な人/そうでない人」に分かれるわけではない
あるあるを読むと、つい「当てはまる=HSP、当てはまらない=非HSP」という二択で考えたくなる。でも研究の見方は、そことはっきり食い違う。
Lionettiら(2018年)は約900名のデータを分析し、人は「敏感」と「鈍感」の2種類に割れるのではなく、低感受性・中程度・高感受性のおおむね3つのグラデーションに分布することを示した。割合は、低感受性が約30.5%、中程度が約40.3%、高感受性が約29.2%。いちばん多いのは真ん中の「そこそこ敏感」な層で、ここは冒頭の「半分くらい当てはまる」という感覚とよく重なる。
だから、あるあるに10個当てはまろうが3個だろうが、それで人が別種類に分かれるわけではない。感受性は温度計のように連続した目盛りで、あなたはそのどこかに位置している——それだけのことだ。「あなたはHSPだ/HSPではない」という線引き自体が、研究の実像とはズレている。
あるあるは、自分を縛るラベルにしない
ここまでを踏まえて、あるあるとの付き合い方を一つだけ。
あるあるが刺さるのは、これまで言葉にできなかった実感に、輪郭を与えてくれるからだ。それは十分に価値がある。一方で、「HSPだから飲み会は無理」「繊細さんだからこの仕事は向かない」と、ラベルを行動の言い訳や天井にしてしまうと、今度は自分を縛る側に回る。感受性は「向き・不向きを決める判定」ではなく、「自分の取扱説明書を書くための語彙」だと考えるほうが、たぶん使い勝手がいい。
HSPという言葉が広まる過程で、科学的な中身以上のものが乗ってしまった面もある。この点は、ブームの功罪を論じてきた研究者・飯村周平氏のインタビューが参考になる。ラベルに寄りかかりすぎず、でも自分の感受性は大事に扱う——その塩梅を探るのが、あるあるの一番いい使い道だと思っている。研究上の位置づけをより体系的に知りたい人は、HSPとは何か——研究でわかっていること・係争中のことへ。
よくある質問(FAQ)
あるあるにたくさん当てはまったら、HSPで確定ですか?
いいえ。前述のとおり、感受性は「ある/なし」で分かれるものではなく連続した個人差です(Lionetti et al., 2018)。当てはまる数の多さは「感受性が高めの傾向」を示す手がかりにはなりますが、あなたを特定の型に確定させる診断ではありません。チェックリスト型の自己診断で何がわかり何がわからないかは、HSP診断テストでわかること・わからないことで扱っています。
HSP(高い感受性)の人は何割くらいいるのですか?
Lionettiら(2018年)の分析では、高感受性に分類された人は約29%でした。ただしこれは特定のサンプル(主に大学生)での区分であり、「人口の正確な何割」と断定できる数字ではありません。真ん中の中程度層が約40%と最も多い点が重要で、多くの人は極端にどちらかではなく、中間のどこかに位置します。
HSP・内向型・繊細さは同じものですか?
重なりますが、同一ではありません。Aronら(1997年)は、感覚処理感受性が内向性や情動性と関連しつつも、それらとは区別できる独自の傾向だと報告しています。内向型(外向性の低さ)との違いは内向型と外向型の違いとは?で整理しています。言葉が似ていても、指しているものは少しずつ違います。
敏感さのせいで生活がつらいときは、どうすればいいですか?
あるあるレベルの「気になりやすさ」と、日常生活や仕事、睡眠に支障が出るほどのつらさは、別の問題として切り分けたほうがよいです。気分の落ち込みや不安、不眠が続いて生活に影響しているなら、気質の話として一人で抱え込まず、医療機関や公的な相談窓口(厚生労働省「こころの耳」など)に相談することをおすすめします。感受性は病気ではありませんが、つらさが続くときの入り口として、専門家の力を借りる選択肢は持っておいてください。