夕方五時。同僚はまだ普通に喋っているのに、こっちの頭はもう半分沈んでいる。疲れやすい体質は生まれつきなのか——そう検索する人が本当に知りたいのは、たぶん遺伝学ではない。「自分が怠けているわけではない」という保証のほうだ。

研究は、その問いに部分的にだけ答えてくれる。「生まれつきの成分は、ある。ただしあなたが思っているのとは少し違う形で」という答え方で。

夕方に落ちる電池

双生児研究が出した「40%」という数字

生まれつきかどうかを調べる古典的なやり方が、双生児の比較だ。遺伝子をほぼ共有する一卵性と、半分ほど共有する二卵性で、ある特徴の似方に差があるかを見る。

Corfieldたちが2017年に『Twin Research and Human Genetics』へ報告した研究では、一卵性双生児660組、二卵性双生児593組に加え、片方だけが参加した単生児555人(一卵性190人・二卵性365人)、のべ3,000人あまりを解析している。結果は、疲労に有意な遺伝的成分があり、遺伝率(h²)の推定値は40%。男女別に見ても男性41%(95%信頼区間18〜62)、女性40%(同27〜52)と、ほぼ同じだった。

ここでいったん止まりたい。遺伝率40%は「あなたの疲労の40%が遺伝で決まっている」という意味ではない。集団の中で人によって疲労の訴えが違う、そのばらつきのうち40%くらいが遺伝的な違いで説明できる、という集団レベルの数字だ。信頼区間の幅(男性で18〜62)を見れば、推定そのものもけっこう揺れている。

では残りは何かというと、環境と測定誤差、そして「まだ分けられていないもの」が入る。遺伝率は、原因の内訳表ではない。

もう一つ、条件を書いておく。この論文が対象にしたのは高齢のオーストラリア人集団で、測っているのは「ここ数週間に経験した疲労」だ。生涯にわたる体質そのものを測ったわけでも、若い世代で確かめたわけでもない。

ありふれた遺伝的変異で説明できたのは、たった8.4%だった

もう一つ、桁違いに大きなデータがある。Dearyたちが『Molecular Psychiatry』へ発表した研究(2017年オンライン公開、誌面は2018年)は、UKバイオバンクの108,976人を対象に、「この2週間、疲れている/気力がないと感じたか」という自己申告の疲労感と全ゲノムのつながりを調べた。

ありふれた遺伝的変異(common SNPs)で説明できた分散の割合は、8.4%(標準誤差0.6%)。同じ論文は、双生児研究による遺伝率の推定が6%から50%の幅にばらついていることにも触れている。

双生児で40%、SNPで8.4%。この開きは遺伝学ではおなじみの現象で、「見つかっていない遺伝要因がまだある」とも「双生児法の前提が推定を膨らませている」とも読める。どちらが正しいかで、遺伝の取り分の見積もりは大きく変わる。前者なら実際の遺伝率は40%前後のままかもしれないし、後者なら双生児の数字が上振れしていることになる。Deary論文自身も双生児研究の推定を6〜50%と幅で併記していて、そこは決着していない。

そもそも二つの研究は、測っているものも集団も違う。片方は高齢のオーストラリア人に「ここ数週間の疲労」を、もう片方は英国の大規模コホートに「この2週間、どのくらいの頻度で疲れている/気力がないと感じたか」を訊いている。数字の開きの何割かは、この違いだけでも生まれうる。

いま確実に言えるのは、ありふれた遺伝的変異で捉えられた分は8.4%にとどまったということだけだ。

私はこの数字を見て、少しほっとした。「生まれつきだから仕方ない」の根拠としては弱いが、裏を返せば「生まれつきだから変わらない」の根拠としても弱い。

疲れやすさは、性格の個人差とも重なっている

疲労を性格の側から追った研究もある。Stephanたちが2022年に『Scientific Reports』へ発表したのは、7つの縦断コホート(HRS、NSHAP、WLSG、WLSS、NHATS、LISS、ELSA)を統合したメタ分析だ。ベースラインで4万人超、追跡期間は5〜20年。ビッグファイブの各特性と疲労の関係を、同時点と将来の発症の両方で見ている。

数字を読む前に、単位を押さえておきたい。この論文のオッズ比は「その性格得点が1標準偏差ぶん高い人は、そうでない人と比べて疲労を訴えるオッズが何倍か」を表す。性格タイプ別の比較ではない。年齢・性別・学歴などで調整したうえでの値だ。

同時点の疲労との関連(1標準偏差あたりのオッズ比)は、神経症傾向 1.73、外向性 0.73、開放性 0.86、協調性 0.85、誠実性 0.67。将来の疲労の発症——ベースラインで疲労を訴えていなかった人だけを追った分析では、神経症傾向 1.38、外向性 0.89、開放性 0.92、協調性 0.92、誠実性 0.80。

神経症傾向が高いほど疲労の訴えが多く、誠実性や外向性が高いほど少ない。しかもベースラインの性格が5〜20年後の疲労を予測している。ここは押さえておきたいところで、同時点の相関だけなら「疲れているから性格の回答が沈んだ」とも読めるが、将来の発症まで予測しているとその説明だけでは足りなくなる

ただしオッズ比は関連の強さであって因果の証明ではない。疲労もほぼすべて自己申告で測られている。「神経症傾向が高い人は不調に気づきやすい・報告しやすい」という報告バイアスの可能性は、この設計では完全には切り離せない。加えて、多くのコホートで疲労はうつ症状の尺度(CES-D)の2項目——「何をするのも骨が折れた」「なかなか動き出せなかった」——から拾われている。神経症傾向とうつ症状は測っているものが一部重なるので、その重なりのぶんだけ関連が大きく出ている可能性は残る。神経症傾向という言葉が日常語の「神経質」とどう違うかは別記事で分けた。

そしてもう一つ、著者ら自身が挙げている限界がある。LISSを除く6コホートは高齢者に限られ、参加者の多くが白人だった。論文は「結果が他の年齢層や民族集団に一般化できるかは、さらなる研究で検討されるべきだ」と書いている。先ほどの双生児研究も高齢集団だった。つまりこの記事で並べた数字はどれも、現役世代の夕方の電池切れにそのまま貼れる保証がない。方向としての参考にはなるが、自分の数値として読むものではない。

遺伝子の上でも、疲労は一つのものではなかった

Dearyたちの研究で個人的にいちばん面白かったのは、疲労感と他の形質との遺伝的な相関だ。

神経症傾向とは rg=0.62、うつ病とは 0.59、自己評価した健康状態とは −0.78、BMI とは 0.20、2型糖尿病 0.18、握力 −0.16。著者らは疲労感を「部分的に遺伝する、多様で複雑な現象」であり、「感情・認知・パーソナリティ・生理的なプロセスと、表現型としても遺伝的にも関連している」とまとめている。

結びつきの強さは同じではない。心理面(神経症傾向・うつ)のほうが明確に強く、身体面(BMI・糖尿病・握力)は数字としては小さい。それでもゼロではない。つまり「疲れやすい体質」という一枚岩があるのではなく、強さの違う複数の経路が、同じ「疲れた」という一語に流れ込んでいる

念のため書いておくと、遺伝相関は「両者が遺伝的な基盤を一部共有している」ことを示すだけで、片方に手を入れればもう片方が動くという意味ではない。この研究は介入の効果を調べたものではない。

ここから先は研究というより私の受け取り方だが、この構図はかなり納得がいく。私の夕方の電池切れも、たぶん一因ではない。前の晩の睡眠と、日中の刺激量と、その週に抱えている心配が、たまたま同じ場所で合流している。原因を一つに決めようとするから、うまく説明できないだけなのだと思う。

なお、刺激への感受性が高い気質と消耗の関係については別の記事で、感受性の概念そのものの検証状況はHSPとは何かで扱っている。

「体質」で片づける前に、外しておきたいもの

ここが、この記事でいちばん強く書きたいところだ。

疲れやすさを「生まれつきの体質」と納得してしまうことには、一つ落とし穴がある。治療できる原因を、性格の問題として見送ってしまう可能性だ。

クリーブランド・クリニックが疲労の原因として挙げているものには、貧血、ビタミンD欠乏、ビタミンB12欠乏、脱水といった欠乏や、甲状腺機能低下症などの内分泌の問題、睡眠障害(不眠症・睡眠時無呼吸など)、うつ・不安・PTSD、糖尿病、心疾患、自己免疫疾患、感染症、そして服用中の薬の影響が並ぶ。

受診の目安として挙がっているのは、疲労が数日を超えて続くとき、仕事や日常の活動をこなすのが難しいとき、直近の病気などはっきりした理由が見当たらないとき、突然始まったとき、65歳を超えているとき、体重が落ちてきているとき。そして次の症状を伴う場合はすぐに医療機関へ、としている——息切れや胸・腕・背中上部の痛み、異常に速い/遅い心拍、動悸や不整脈、頭痛や視覚の異常(特に最近頭を打った場合)、吐き気・嘔吐・腹痛、筋力の低下、自分や他人を傷つける考え。

遺伝率40%は、血液検査の代わりにはならない。「昔からこうだから」で何年も過ごしている自覚があるなら、一度きちんと調べてもらうほうが早い。健康や心の状態に関わる判断は、この記事を含むどんな記事でもなく、医療者と一緒に決めてほしい。

気分の落ち込みが続いていたり、自分や誰かを傷つける考えが浮かんだりしているときは、受診を待たずに相談できる窓口がある。厚生労働省の「こころの健康相談統一ダイヤル」(0570-064-556)は、全国どこからでも公的な相談先につながる。働いている人なら、こころの耳に職場向けの相談先もまとまっている。

動かせる側にあるもの

医学的な原因を外したうえで、生活の側にできることは残る。厚生労働省のe-ヘルスネット「快眠と生活習慣」は、睡眠と生活習慣の関係について公的な情報をまとめている。定期的な運動、入浴のタイミング、朝の光。地味だし、目新しさもない。ただ、クリーブランド・クリニックが疲労の原因の一つに睡眠障害を挙げていることを踏まえると、まず触りにいく場所としては妥当だと思う。

私が実感として効いたのは、「回復の予定」を先に入れておくことだった。疲れてから休むと、その日はもう終わっている。人と会う予定の翌日を軽くしておく、夕方に判断のいる仕事を置かない。予防のほうが、はるかに安い。

体質という言葉は、便利だが少し重い。生まれつきの成分は確かにある。ただ、その成分は運命というより、初期設定に近い。

よくある質問(FAQ)

疲れやすい体質は生まれつき決まっているのですか?

「生まれつきの成分がある」までは言えますが、「決まっている」とは言えません。Corfieldたちのオーストラリア双生児研究では疲労の遺伝率が40%(男性41%・女性40%)と推定されました。ただし遺伝率は集団のばらつきをどれだけ遺伝的な違いで説明できるかを表す数字で、個人の疲労の内訳ではありません。加えて、Dearyたちが108,976人のUKバイオバンクのデータでありふれた遺伝的変異から説明できた分散は8.4%にとどまっています。同じ論文は双生児研究の推定が6〜50%と幅広いことにも触れています。なお双生児研究の対象は高齢のオーストラリア人集団で、測っているのは生涯の体質ではなく直近数週間の疲労の訴えです。数字はどれも「一部は遺伝的」を支持しますが、「変えられない」までは支持していません。

性格が疲れやすさに影響するのでしょうか?

関連は繰り返し報告されています。Stephanたちが7つの縦断コホート・ベースライン4万人超をまとめたメタ分析では、性格得点が1標準偏差高いことに対して、神経症傾向は同時点の疲労のオッズが高く(OR 1.73)、ベースラインで疲労のなかった人が5〜20年後に新たに疲労を訴えるオッズも高くなっていました(OR 1.38)。逆に誠実性(0.67/0.80)や外向性(0.73/0.89)は低いほうへ働いています。いずれも性格タイプ別の比較ではなく、連続量としての得点差あたりの数字です。ただしこれは関連であって因果の証明ではなく、疲労はほぼ自己申告——多くのコホートではうつ症状尺度の2項目——で測られています。性格が疲労を生むのか、報告のしやすさが違うのか、共通の要因が両方に効いているのかは、この設計だけでは分けられません。さらに著者らは、LISSを除く6コホートが高齢者に限られ参加者の多くが白人だったことを限界として挙げ、他の年齢層や民族集団への一般化は今後の検討課題だとしています。

疲れやすいのは気持ちの問題だと言われます。どう考えればいいですか?

心理と身体の二択で考えないほうが実情に近いと思います。Dearyたちの研究では、自己申告の疲労感は神経症傾向(rg=0.62)やうつ病(0.59)と遺伝的に相関する一方で、BMI(0.20)、2型糖尿病(0.18)、握力(−0.16)とも相関していました。著者らはこれを「感情・認知・パーソナリティ・生理的なプロセスと関連した、多様で複雑な現象」と表現しています。気持ちの問題か体の問題かではなく、両方に足がかかっている、というのが研究の側の描像です。なお遺伝的な相関は基盤の共有を示すもので、片方に介入すればもう片方が改善するという意味ではありません。

どこからが受診を考えるラインですか?

自己判断で線を引くより、生活への影響で見るほうが確実です。クリーブランド・クリニックは、疲労が数日を超えて続くとき、仕事や日常の活動をこなすのが難しいとき、はっきりした理由が見当たらないとき、突然始まったとき、65歳を超えているとき、体重が落ちているときに医療機関へ相談するよう挙げています。息切れや胸・腕・背中上部の痛み、異常に速い/遅い心拍、動悸や不整脈、頭痛や視覚の異常、吐き気・嘔吐・腹痛、筋力の低下、自分や他人を傷つける考えを伴う場合はすぐに受診してください。疲労は貧血、ビタミンB12・D欠乏、甲状腺機能低下症、睡眠障害、うつ、糖尿病、薬の副作用など、対処法のある原因からも起こります。「昔からこうだから」で長く過ごしている場合ほど、一度調べる価値があります。

生活の工夫でできることはありますか?

睡眠と生活習慣の整え方については、厚生労働省のe-ヘルスネット「快眠と生活習慣」に公的な情報がまとまっています。運動や入浴のタイミング、光の浴び方といった基本が中心です。クリーブランド・クリニックが疲労の原因として不眠症や睡眠時無呼吸などの睡眠障害を挙げていることを踏まえると、睡眠まわりはまず見ておきたい領域ではあります。ただし個別の症状や持病がある場合は、一般論より医療者の助言を優先してください。


「昔から疲れやすい」を、私は長いこと性格の一部だと思っていた。数字を並べてみると、そこには遺伝も、生活も、たまたまその時期に抱えていたものも混ざっている。全部を切り分けられる日は来ないかもしれない。それでも、どこか一つは動かせる側にある——今はそのくらいの感触で付き合っている。