ストレス耐性が低い、と自分について言うとき、私たちは何を測っているつもりでいるのだろう。採用面接でも自己分析でも、それは体力や視力のように一本の目盛りで測れる能力として扱われている。高い人と低い人がいて、低い側は不利だ、という前提で。
ところが研究の側にわたると、この言葉はきれいに一本にはならない。ストレスへの強さに関わる測定はいくつも存在するけれど、それらは別々の研究伝統から出てきた別々の概念で、日常語の「ストレス耐性」と一対一で対応しているわけではない。後で触れるJoyceらの系統的レビューも、レジリエンスという一領域に絞ってさえ、妥当で信頼できる尺度は複数あるがゴールドスタンダードと呼べるものは(2018年時点で)存在しない、という先行レビューの結論を引いている。何を測ったかで、見えるものが変わる。

この記事では、三つに分けて見ていく
ここから使う三分割は、研究側の公式な分類ではない。話を進めるためにこの記事で置く整理だと思ってほしい。
一つめは、ストレスにさらされた瞬間の生理的な反応の大きさ。心拍やコルチゾールがどれだけ動くか。
二つめは、大きな出来事のあとにどう戻っていくかの軌跡。落ち込みの深さではなく、時間経過のかたちを見る。
三つめは、環境からの影響の受けやすさそのもの。良い環境からも悪い環境からも、人より強く影響を受ける度合いという捉え方だ。
この三つは、別々の研究伝統のなかで、別々の道具によって測られてきた。片方が高ければ片方も高い、という関係が前提されているわけではない。にもかかわらず日常語の「ストレス耐性」は三つをまとめて一本にし、しかもそれを人に貼りつくラベルとして使う。まずここを分けないと、話が前に進まない。
反応の大きさは、課題の特徴によって大きく変わった
DickersonとKemenyが2004年に『Psychological Bulletin』誌に発表したメタ分析は、急性の心理的ストレッサーを扱った208の実験室研究を統合している。何が人のコルチゾール反応を引き起こすのかを、課題の性質ごとに切り分けたものだ。
結果は明快だった。心理的ストレッサーはたしかにコルチゾールを上昇させたが、その効果は課題によって大きく異なった。方法論上の要因や他の特徴を統制したうえで反応を引き出していたのは、動機づけられた遂行課題のうち、制御不可能なもの、あるいは社会的評価脅威(自分の遂行が他者に否定的に評価されうる状況)を含むものだった。
そして、制御不可能性と社会的評価の両方を含む課題では、コルチゾールと副腎皮質刺激ホルモンの変化が最も大きく、回復までの時間も最も長かった。論文はこの結果について、コルチゾールがあらゆる種類のストレッサーに反応するという通念とは矛盾する、と述べている。この「回復までの時間」で研究が追えたのは課題終了後60分までで、両方を含む課題は41〜60分の時点でも上昇が残った唯一の型だった。ただしこの区間を測った研究は少なく、推定は脆い。同論文は、その先いつベースラインに戻るのかを判定できるだけの研究がないとも書いている。さらに、ピーク時の反応の大きさを統制すると回復の遅さは有意でなくなり、戻りにくさは主にピークの大きさで説明されるとも述べている。独立した「戻りにくい体質」が示されたわけではない。
ここから先は、私が勝手に職場の風景へ翻訳した話になる。自分ではどうにもできない仕事が、人に見られながら評価される。締切も裁量も自分の手にはなく、失敗すれば誰かの目に残る。研究が名指ししたのは実験室の課題特性であって職場ではないが、条件の形はよく似ていると思う。
だから「あの職場で自分は壊れかけたのに、別の人は平気そうだった」という比較には、条件のちがいが抜け落ちていることが多いのではないか。裁量の量も、評価にさらされる度合いも、席によってまるで違う。同じ会社にいることは、同じ状況にいることを意味しない。
「耐える」より「戻る」で見たとき、何が見えるか
二つめの測り方は、時間軸で見るものだ。
Galatzer-Levy、Huang、Bonannoが2018年に『Clinical Psychology Review』誌にまとめたレビューは、潜在的にトラウマとなりうる出来事(PTEs)や重大な生活上のストレッサーのあとの経過を追った54研究を統合している。そこから抽出された67のケースで繰り返し観察されたのは、次の四つの軌跡だった。
| 軌跡 | 観察されたケース数 | その軌跡が観察された研究での平均出現率 | 95%信頼区間 |
|---|---|---|---|
| レジリエンス(当初から低い症状水準を維持) | 63 | 65.7% | 61.6–69.8% |
| 回復(一度悪化してから戻る) | 49 | 20.8% | 16.2–25.8% |
| 慢性(悪化が持続する) | 47 | 10.6% | 8.6–12.7% |
| 遅発(時間をおいて悪化する) | 22 | 8.9% | 5.3–13.3% |
この四つは一つの母集団の内訳ではない。各軌跡は、それが観察された研究だけを分母にして別々に推定されているため、足すと106%になる。円グラフのようには読めない数字だ。
レビューは、レジリエンスが逆境に対する最頻の反応(modal response)であり、これらの軌跡が集団や文脈をまたいで比較的一貫した割合で現れることから、人間のストレス反応の表現型である可能性が高いと述べている。ただし研究間のばらつきを示す指標はいずれの軌跡でも極めて大きく、上の数値は代表値というより目安として扱うのが妥当だ。
射程にも注意がいる。これは重大な出来事のあとの経過を扱った研究であって、毎日の職場ストレスをそのまま説明するものではない。数字を日常の疲弊に横滑りさせるのは、研究が言っていないことを言わせる行為になる。
そのうえで、この整理には視点を変える力があると思っている。「耐えられたか」を一時点で採点する見方に対して、軌跡の研究は「どう戻ったか」を見ている。落ち込みの深さと回復の有無は別の変数だ、と読める。深く落ちた人が慢性化しているとは限らないし、平気そうに見えた人が遅発の側にいることもある。
疲労そのものの個人差については疲れやすい体質は生まれつき? 疲労の個人差を研究から整理するで扱った。
三つめの測り方と、「鍛えられるのか」について
残る二点は、別の記事で詳しく扱ったので要点だけ置いておく。
三つめの測り方——環境からの影響の受けやすさについて、Grevenらが2019年に『Neuroscience & Biobehavioral Reviews』誌に発表した批判的レビューは、感覚処理感受性をネガティブな環境とポジティブな環境の両方に対する感受性の個人差として位置づけている。ネガティブな環境ではストレス関連の問題のリスクが高まる一方、ポジティブで支持的な経験からはより大きな恩恵を得る、と。一方向の不利としては描かれていない。同レビュー自身が測定の信頼性・客観性の不足を課題に挙げており、人を分類するラベルとして使える段階ではない。用語としての整理は感覚処理感受性にある。
「鍛えられるのか」については、Joyceらが2018年に『BMJ Open』誌に発表した系統的レビュー・メタ分析(11のランダム化比較試験)が、レジリエンス向上を狙った介入の統合効果量を0.44(95%信頼区間 0.23〜0.64)——中程度の正の効果と報告している。伸びる余地はある。ただしアウトカムはレジリエンス尺度への自己回答であって、実際に逆境が起きたあとの立ち直りを測ったものではない。11本という規模も控えめに扱うべき土台だ。技法についてはマインドフルネスも参照してほしい。
この二点の詳しい整理と、職場の選び方への接続は『打たれ弱い』と仕事——ストレス感受性の個人差と職場の選び方に置いてある。
私の受け取り方だけ書いておくと、伸びる余地は、状況の側を変えることで得られるものと競合しない。並んでいる。制御不可能性と社会的評価が重なった場所に居続けながら、訓練だけで釣り合いを取ろうとするのは分が悪い。
しんどさが続いているときは
ここまでは概念の整理だった。でも、この記事にたどり着いた理由が「いま職場でつらい」なら、優先順位は別のところにある。
消耗が続く状態は、燃え尽きとして別に記述されている。それについては燃え尽き症候群とは何か——WHOの定義と「原因の在りか」を読むで整理した。
そして、眠れない、食欲がない、朝起き上がれない、気分の落ち込みが二週間以上続いている——そうした状態が重なっているなら、耐性が高いか低いかを考えるより先に医療機関に相談してほしい。この記事に書いてあるどの数字も、目の前の不調が何によるものかを判定する材料にはならない。
働く人向けの公的な情報と相談窓口は、厚生労働省のこころの耳にまとまっている。電話相談(0120-565-455)は平日17時〜22時、土日10時〜16時(祝日・振替休日・年末年始を除く。受付は終了10分前まで)。気分の落ち込みが強いときや自分を傷つける考えが浮かぶときは「こころの健康相談統一ダイヤル」(0570-064-556)があり、かけた場所の公的な相談機関につながる。受付時間は自治体によって異なるため、つながらない時間帯には24時間受け付けの「よりそいホットライン」(0120-279-338。福島県からかける場合は0120-279-226)を。いますぐ危険がある場合は119番へ。
裁量のなさが構造的なもので、動く見込みがないときの選択肢としては、置き場所を変える道もある。進め方は内向型の転職サイト・エージェント完全ガイドにまとめてある。
よくある質問(FAQ)
ストレス耐性は測定できるのですか?
ストレスへの強さに関わる測定は複数あり、妥当性の検討が進んでいるものもあれば、測定そのものが課題として残っているものもあります。ただしいずれも別々の研究伝統から出てきた別々の概念で、日常語の「ストレス耐性」に一対一で対応する一本の指標に収束しているわけではありません。レジリエンスに限っても、Joyceらの系統的レビューは、妥当で信頼できる尺度は複数あるもののゴールドスタンダードと呼べる尺度は存在しない(2018年時点)とする先行レビューの結論を引いています。近い領域で測られているのは、急性ストレス下の生理的反応(コルチゾールなど)、重大な出来事のあとの症状の軌跡、環境への感受性、レジリエンス尺度への自己回答などです。たとえばDickersonとKemenyのメタ分析は208の実験室研究から生理的反応を扱い、Galatzer-Levyらのレビューは54研究から回復の軌跡を抽出しています。同じ人を測っても、どの道具を使うかで見えるものが変わります。
同じ職場でも、ストレス反応の出方が人によって違うのはなぜですか?
置かれた状況の側にも目を向ける余地があります。DickersonとKemenyのメタ分析では、コルチゾール反応を引き起こしていたのは、制御不可能な課題と、遂行が他者に否定的に評価されうる社会的評価脅威を含む課題でした。この二つを両方含む課題で、ホルモンの変化が最も大きく、回復までの時間も最も長くなっています。同じ会社にいても、裁量の量と評価にさらされる度合いは席によって異なります。ただし注意が要ります。この研究が比べたのは課題の特徴どうしであって、人の側の特性を測って比較したものではありません。つまり「個人差では説明が足りない」と言えるところまでは示しておらず、そこは私の見方です。扱っているのも実験室での反応の大きさであって、誰が体調を崩すかを直接調べたものでもありません。
打たれ弱いのは治らないのでしょうか?
Joyceらの系統的レビュー・メタ分析(11のランダム化比較試験)では、レジリエンス向上を狙った介入の統合効果量は0.44(95%信頼区間 0.23〜0.64)で、中程度の正の効果と表現されています。CBTベース、マインドフルネスベース、その混合型のいずれも有効性が示唆されました。伸びる余地はある、と読めます。ただし測られているのはレジリエンス尺度への自己回答であって、実際に逆境が起きたあとの立ち直りではありません。11本という規模も控えめに扱うべき土台で、「訓練すれば誰でも打たれ強くなれる」という結論までは出ていません。
感受性が高いのは仕事上のハンデですか?
Grevenらの批判的レビューは、感覚処理感受性をネガティブな環境とポジティブな環境の両方への感受性の個人差として位置づけています。結論では、ネガティブな環境下でストレス関連の問題のリスクが高まる一方、ポジティブで支持的な経験からはより大きな恩恵を得るとされています。一方向の不利として描かれてはいません。ただし同レビュー自身が、測定の信頼性と客観性の不足、他の特性との区別の難しさを課題として挙げており、人を分類する道具として使える段階ではありません。
大きなストレスを受けたあと、みんなどうなるのですか?
Galatzer-Levyらのレビューは、潜在的にトラウマとなりうる出来事や重大な生活上のストレッサーを扱った54研究(67ケース)を統合し、レジリエンス・回復・慢性・遅発という四つの軌跡を抽出しています。それぞれの平均出現率は、レジリエンス65.7%(95%信頼区間 61.6〜69.8%)、回復20.8%、慢性10.6%、遅発8.9%と報告されました。レジリエンスが最も多い反応だったことになります。ただしこの四つは一つの母集団の内訳ではなく、各軌跡が観察された研究だけを分母に別々に推定されているため、足すと106%になります。研究間のばらつきも極めて大きく、点推定値は目安です。加えてこれは重大な出来事のあとの経過に関する研究で、日常的な職場ストレスに直接あてはめられるものではありませんし、個人がどの軌跡をたどるかを予測するものでもありません。
「ストレス耐性」という言葉の一番やっかいなところは、それが人の属性の形をしていることだと思う。属性なら、足りない人が悪いという話にできてしまう。
でも実験室で反応を跳ね上げていたのは、課題の側の特徴——制御できないことと、見られていることの重なりだった。あの研究は性格を測ってそれを否定したわけではないから、これは半分だけの話ではある。それでも、耐性という言葉を一度置いて「いま自分は、どれくらい自分で決められる場所にいるだろう」と聞き直したほうが、答えは出やすいのかもしれない。