仕事が楽しくない。この一文をそのまま測った研究を、私は見つけられなかった。研究が代わりに積み上げてきたのは、職務満足でもやる気でもなく、退屈(boredom at work) という別の物差しだ。

物差しが違うと、見える形も変わる。「楽しくない」を怠けや適性の話に置く前に、研究が実際に何を数えてきたのかを見ておきたい。

67.5%の内訳に、その感情の名前がない

厚生労働省の令和7年 労働安全衛生調査(実態調査)によれば、現在の仕事や職業生活に関することで強い不安、悩み、ストレスと感じる事柄がある労働者の割合は67.5%(令和6年調査は68.3%)だった。

内容をみると、「仕事の量」と「仕事の失敗、責任の発生等」がともに39.5%で最も多く、次いで「対人関係(セクハラ・パワハラを含む)」が32.9%。

この一覧を眺めていて、少し引っかかった。上位の項目はどれも「重い」の話で、「味気ない」が独立した項目として立っていない。責任が重い、量が多い、人がしんどい。強い不安や悩みという枠で数えている以上それは当然なのだが、金曜の午後にモニタの右下の時計を三分おきに見てしまうあの感じは、この67.5%の内訳の中で名前を持っていない。

同じ調査では、仕事のストレスについて相談できる人がいる労働者の割合は94.8%とされている。相談先はある。ただ、「別にしんどくはないんだけど、楽しくもないんです」は、自分から言葉にしにくい。窓口が合わないという意味ではなく、こちら側に持っていく言葉がない、という感じに近い。

研究は「退屈」という物差しを作った

その空白に近いところを測ろうとしたのが、Reijseger らが2013年に Anxiety, Stress & Coping に発表した研究だ。

論文は職場の退屈を「比較的低い覚醒と高い不満によって特徴づけられる、従業員のウェルビーイングが損なわれた状態」と定義し、それを測る短い自己報告式の尺度(Dutch Boredom Scale/DUBS)を提示した。三つのサンプル、計6,315人の従業員のデータで因子分析をおこない、ワークエンゲージメントやバーンアウトとは別物として区別できることを示している。

そのうち2サンプル・計4,673人を使った構造方程式モデリングの結果として報告されたのは、次の二つだ。仕事の要求も資源も、退屈とは負の関連にあったこと。そして退屈は職務満足・組織コミットメントと負の関連、離職意向とは正の関連にあったこと。

要求が低いほど退屈が高い、という向きに注意してほしい。楽な仕事ほど楽しい、という素朴な図式とは合わない。

日本の1,358人でも、同じ向きが出ている

日本語版は、Kawada らが2022年に Journal of Occupational Health で検証している(DUBS-J)。さまざまな職種の日本の従業員1,358人にインターネット調査を実施し、内的整合性はCronbachのα = .88、再検査信頼性は級内相関係数 = .62。確認的因子分析と平均分散抽出により、ワークエンゲージメント・ワーカホリズム・職務満足との判別妥当性が支持された。

相関の一覧が興味深い。仕事の量的要求は r = −0.21、質的要求は r = −0.19。どちらも負、つまり求められる量や難度が低い人ほど、退屈は高く出ている。上司の支援は −0.09、同僚の支援は −0.13。

そして仕事のコントロール(裁量)は r = −0.04 で、統計的に意味のある関連ではなかった。裁量が大きければ退屈しない、とは言えていない。

一つの横断調査なので因果の向きは決まらない。それでもこの並びは、「暇なら楽なはずだ」という前提を静かに押し返してくる。

「やる気がない」とも少し違う場所にある

退屈がどこに位置するのかも、数字が示している。

DUBS-J とワークエンゲージメントの下位尺度の相関は、活力(vigor)が r = −0.56、熱意(dedication)が −0.15、没頭(absorption)が −0.09。職務満足は −0.15、仕事のパフォーマンスは −0.19、心理的ストレス反応(K6)は +0.32 だった。ワーカホリズムのうち「過度に働く」は 0.00、「強迫的に働く」は 0.08。

論文はこれを、快・不快と活性の高低で感情を配置する枠組みで説明している。退屈は「不快 × 低活性」の象限にあり、ワークエンゲージメントは「快 × 高活性」の象限にある

つまり退屈は、エンゲージメントの単なる裏返しではない。活力とはよく対応する(−0.56)が、熱意や没頭とはほとんど連動していない。仕事に思い入れがないわけでも、集中できないわけでもないのに、退屈だけが立ち上がることがある。

「低すぎる活性」という捉え方

この見方は、刺激の量と心身の働きの関係を扱う最適覚醒水準の考え方と地続きだ。刺激が多すぎてもパフォーマンスは落ちるが、少なすぎても落ちる。退屈は後者側にいる。

「楽しくなさ」のかなりの部分は、仕事の設計の話

では何が効くのか。ここで参照したいのが、Humphrey・Nahrgang・Morgeson が2007年に Journal of Applied Psychology に発表したメタ分析だ。

259の研究、21万9,625人分を統合したこの論文によれば、14の職務特性が、検討された19の労働者の態度・行動の分散を平均43%説明していた。内訳を見ると、自律性や技能の多様性といった動機づけ的特性だけで、職務満足の分散の34%、主観的パフォーマンスの25%、組織コミットメントの24%を説明している。

職場の人との関わりは、そのうえに乗る

さらに動機づけ的特性を超えて、社会的特性(他者との相互依存、フィードバック、支援など)が職務満足に17%、組織コミットメントに40%、離職意向に24%の分散を上乗せで説明した。そのうえに作業条件などの文脈的特性が、職務満足に4%、ストレスに16%を上乗せしている。

相関の統合であって、実験ではない。しかも多くは自己報告どうしの相関なので、同じ人が同じ質問紙で答えたことによる上振れも含まれている。「職務特性を変えれば満足が上がる」という因果を、この数字だけで確定させることはできない。それでも、職務満足の分散の三分の一ほどが仕事の設計側の変数で説明されるという推定値は、「楽しくないのは自分の心構えの問題だろうか」と考えている人にとって、ひとまず持ち帰る価値があると思う。

私が結局やったのは、担当の輪郭を変えることだった

ここから先は研究の話ではない。

私にも「しんどくはないが楽しくもない」時期がある。仕事は回っていて、締切も守れていて、けれど夕方になると自分が何をしたのか思い出せない。そういうとき、自分の熱意が枯れたのだと解釈しがちだった。いま数字を並べ直してみると、たぶんそうではない。要求が下がりきっていて、活性が上がる場面が一日のどこにもないだけだ。

そして私の場合に効くのは、休むことでもやる気を出すことでもなく、やることを一つ増やすほうだった。少し面倒な役割に自分から手を挙げると、しんどさは増えるのに、時計を見る回数は減る。

ただしこれは、要求が下がりきっているときの話だ。すでに手一杯で、しんどさのほうが先に来ている人にとっては、まるで逆向きの処方になる。同じ「楽しくない」でも、その下に何が敷かれているかで打ち手は反転する。

設計が動かないなら、場所を変える手もある

こういう「自分の側から仕事の輪郭を作り変える」行動はジョブクラフティングとして研究されている。ただし、そこで示されている効果量は魔法ではないし、裁量のない職場で一人でやりくりし続けるのが正解とも思わない。設計そのものが動かないなら、環境を変えるほうが早いこともある。その判断材料は内向型の転職サイト・エージェント完全ガイドのほうにまとめてある。

退屈と心理的ストレス反応の相関は r = +0.32 だった。楽しくない状態が長く続き、眠れない・食欲がない・何にも興味が持てないといったサインが重なっているなら、それは仕事の面白さの問題ではなくなっているかもしれない。厚生労働省のこころの耳には相談窓口がまとまっているし、産業医や医療機関に早めにつながってほしい。

よくある質問(FAQ)

「仕事が楽しくない」は、甘えなのでしょうか?

研究の側から言えるのは、この感覚が「退屈」として測定可能な状態であり、職務満足・組織コミットメント・離職意向と一貫した関連を持つ、ということです(Reijseger ら2013)。また職務満足の分散の34%は動機づけ的な職務特性で説明されています(Humphrey ら2007)。個人の姿勢だけに帰す前に、仕事の側の変数が相当量あることは押さえておいてよいと思います。

忙しくないのに楽しくないのは、なぜですか?

因果は特定できませんが、退屈と仕事の要求の相関は負の向きに出ています。日本の1,358人の調査では、量的要求が r = −0.21、質的要求が r = −0.19 でした。求められる量や難度が低い人ほど退屈が高く出ており、「暇なら楽」という前提とは合わない結果です。

やる気が出ないのと、退屈は同じですか?

同じではないという結果が出ています。日本語版の調査では、退屈とワークエンゲージメントの相関は活力で −0.56 だったのに対し、熱意で −0.15、没頭で −0.09 にとどまりました。仕事への思い入れがあっても、活性が上がらないという形で退屈が立ち上がることがあります。

裁量が増えれば退屈は減りますか?

そう単純ではないようです。同じ調査で、仕事のコントロール(裁量)と退屈の相関は r = −0.04 で、統計的に意味のある関連ではありませんでした。ただし一つの横断調査の結果であり、裁量が無意味だと結論づけられるわけでもありません。

転職を考えるべきタイミングはありますか?

研究がタイミングを決めてくれることはありません。判断材料としては、仕事の設計側(要求・支援・裁量・フィードバック)に動かせる余地が残っているかどうかが一つの分かれ目になります。そのうえで、眠れない・食欲がないなどの心身のサインが続いている場合は、転職活動より先に受診を優先してください。