サウナの効果について書かれた文章を読んでいると、途中で足元が急に頼りなくなる瞬間がある。心血管系に良い、認知症のリスクが下がる、うつに効く——出てくる話のスケールが、根拠の強さと噛み合っていないことが多いからだ。

ここでは順番を逆にして、どの研究が何をどこまで示したかから始めたい。そのうえで、いちばん語られやすくて、まだ研究の乏しい「ととのう」という体験に触れる。

いちばん有名な研究が、実際に書いていること

サウナの話でほぼ必ず引かれるのが、Laukkanen らが2015年に JAMA Internal Medicine に発表した研究だ。

フィンランド東部の中年男性2,315人(42〜60歳)を対象にした前向きコホート研究で、ベースライン調査は1984年から1989年にかけて行われた。追跡期間の中央値は20.7年。この間に突然心臓死190件、致死性冠動脈疾患281件、致死性心血管疾患407件、全死因死亡929件が発生している。

心血管リスク因子で調整したうえで、週1回の人と比べたときの突然心臓死のハザード比は、週2〜3回で0.78(95%信頼区間 0.57–1.07)、週4〜7回で0.37(同 0.18–0.75)、傾向性のP値は.005だった。1回あたりの時間でも、11分未満と比べて19分超では突然心臓死のハザード比0.48(同 0.31–0.75)。

数字だけ見れば強い。実際、著者らの結論も「サウナ入浴の頻度の増加は、突然心臓死・冠動脈疾患・心血管疾患・全死因死亡のリスク低下と関連している」だ。

ただし「寿命が延びる」とは書かれていない

同じ結論の文は、こう続く。「サウナ入浴と心血管の健康を結ぶ潜在的な機序を確立するには、さらなる研究が必要である」。

これは観察研究だ。サウナに入る回数を割り付けたわけではない。すでに健康な人ほど週に何度もサウナに通えるという向きの因果を、このデザインで否定することはできない。加えて対象はフィンランド東部の中年男性のみで、女性も、日本のサウナ文化も、この2,315人には含まれていない。

ちなみに、1回の時間が長いほど良いという関連は突然心臓死や冠動脈疾患では見られた一方、全死因死亡については有意ではなかった。都合よくまとめると落ちる情報が、こういうところにある。

系統的レビューが見ている、もう少し引いた景色

個々の研究ではなく全体を見たいときに参照できるのが、Hussain と Cohen が2018年に発表した系統的レビューだ。

集められたのは、2000年以降に発表された乾式サウナに関する40の臨床研究、参加者は合計3,855人。12か国にまたがり、半数以上が日本発の研究だった(日本の温熱療法研究の蓄積が効いている)。組み入れられた研究のプロトコルは、フィンランド式が1件を除き80〜90℃・湿度10〜20%、遠赤外線式は25件のうち2件を除きすべて60℃(例外は40〜45℃と55℃)。1回あたりは5〜20分で、1日の合計は30分から4時間、期間は3日から5か月と幅がある。

なお、さきほどの2015年のコホート研究も、このレビューに含まれている。二つを別々の根拠として数えると、証拠の幅を実際より広く見積もることになる。

報告されているアウトカムは、血圧や心機能、リウマチ性疾患の痛みとこわばり、慢性疲労、気分、COPDやアレルギー性鼻炎の気道機能と幅広く、多くの研究が有益な効果を報告している。

ただ、このレビューでいちばん重要なのは結果の一覧ではなく、質の評価のほうだと思う。40研究のうちランダム化比較試験は13。そのうちコクランの基準で全体的なバイアスリスクが低いと評価されたのは3研究のみ(参加者は840人中343人)だった。著者ら自身が、多くの研究が比較的小規模であること、研究間の異質性が大きく意味のある比較を難しくしていることを述べている。

有害事象については、軽度から中等度の熱不快感・熱不耐が4研究、低血圧やふらつきが1研究、一過性の脚の痛みが1研究、気道刺激が2研究、閉所恐怖が1研究で報告され、組み入れられた40研究のなかに重篤なものは無かった。1研究では精子への可逆的な影響が示されている。

つまり現時点では、「効きそうだという報告は多いが、強い証拠として積み上がっているとは言い難い」というのが正直な要約になる。

気分やメンタルへの効果は、どこまで言えるか

「サウナはうつに効く」という話の多くは、Janssen らが2016年に JAMA Psychiatry に発表したランダム化比較試験に行き着く。ただし、これはサウナの研究ではない

調べられたのは全身温熱療法(whole-body hyperthermia)だ。6週間の二重盲検試験で、338人のスクリーニングから34人が無作為化され、30人が介入を受け、29人が解析に含まれた。対象は薬物療法を受けていない大うつ病性障害の人で、ハミルトンうつ病評価尺度17項目版のベースライン得点が16点以上。

単回の全身温熱療法は、シャム(強い熱だけを欠いた擬似処置)と比べて、介入後6週間にわたって有意にうつ症状の得点を下げた。1週後で−6.53、6週後で−4.27である。有害事象は両群とも概ね軽度だった。

結果としては興味深い。ただ、この研究をサウナの根拠として使うには距離がありすぎる。34人という規模、単施設、単回の介入、そして何より装置も条件もサウナではない。著者らの結論も「有望である」という表現に留まっている。

なお、気分の落ち込みや不眠が続いているなら、サウナを対処法として試す前に医療機関に相談してほしい。ここで扱ったのは研究の整理であって、治療の代わりではない。眠りの側から整えたい場合は睡眠の質を改善する方法に別途まとめている。

「ととのう」を測ろうとした研究は、いま1本ある

日本で語られる「ととのう」——温冷交代浴のあとの独特の感覚——については、長らく研究が無かった。それを正面から扱ったのが、Chang らが2023年に PLOS ONE に発表した実験だ。

健常な参加者20人(うち男性14人、21〜41歳)をサウナ群10人と対照群10人に分け、サウナ群は85〜90℃のサウナ10分 → 16℃の水風呂1〜2分 → 20℃で休憩7分を3セット行った。対照群はサウナに入らず、皮膚が水に触れる時間を揃えるために37℃の湯に浸かって休んでいる。

前後で脳波と聴覚オドボール課題を測定したところ、サウナ群ではシータ波とアルファ波のパワーが有意に増加し、P300振幅が低下してMMN振幅が増加、課題の反応時間も短縮し、主観的な身体のリラックス指標にも有意な変化が見られた。これらの変化は対照群では見られていない

面白い結果だと思う。ただ、これ一本で「ととのうは科学的に説明された」とは言えない。1群10人という規模、追試の不在、そして著者全員が計測デバイスを開発する企業に所属し、開発中の製品と特許を利益相反として開示していること——どれも結果の重みを見積もるうえで外せない情報だ。

言えるのはこの程度になる。「ととのう」は、ようやく測定の対象になったばかりの状態である。

それでも、感じ方には個人差がある

ここから先は研究の要約ではなく、私の見方だ。

サウナ室にあるのは熱だけではない。木の匂い、ロウリュの音、他人の気配、裸でいること、混み合った室内での距離の近さ。熱そのものより先に、こちらの刺激で消耗するタイプの人がいる。私自身、整うどころか、隣の人の呼吸音が気になって出てくる回が何度もあった。

刺激の量と快・不快の関係は人によってずれる、という考え方は、最適覚醒水準という古い概念で扱われてきた。同じ強さの刺激が、ある人には心地よく、ある人には過剰になる。感覚処理感受性の研究も、環境からの入力に対する反応の個人差を測ろうとしてきたものだ。

ここで気をつけたいのは、これを「サウナに向いている人/向いていない人」という二分に落とさないことだ。そういうラベルはたいてい当たらないし、その日の疲労や混雑具合で簡単にひっくり返る。同じ刺激が同じ体験にならない、というところまでで止めておくのが、研究の言えている範囲に近い。

合わない日は無理をしない。それだけで、たぶん十分だと思う。刺激からの回復という文脈では疲れをリセットする方法のほうが役に立つ場面もある。

安全のほうは、はっきりしている

効果の証拠が弱い一方で、リスクの側の情報ははっきりしている

消費者庁は、冬季に多発する高齢者の入浴中の事故について繰り返し注意を呼びかけている。厚生労働省の人口動態調査をもとに、高齢者の不慮の溺死・溺水による死亡は高い水準が続き、近年は交通事故による死亡を上回っていること、家や居住施設の浴槽での事故が多いこと、11月から4月の冬季に集中していることが示されている。

挙げられている対策は具体的だ。入浴前に脱衣所と浴室を暖めること。湯温は41度以下、湯につかる時間は10分までを目安にすること。浴槽から急に立ち上がらないこと。食後すぐ・飲酒後・医薬品の服用後の入浴を避けること。入浴前に同居者へ一声かけること。

これは家庭の浴槽についての情報であってサウナそのものではない。ただ、急激な血圧の変動と体温上昇という原理は共通している。

サウナ側のリスクについても、さきほどの系統的レビューが医学文献全般を引いて触れている。熱傷、(とくに不安定な冠動脈疾患のある人での)心筋虚血、失神や転倒、非労作性熱中症、横紋筋融解、そして死亡。スウェーデンとフィンランドの後ろ向き研究では、サウナに関連する年間死亡率が人口10万あたりそれぞれ0.06と2と報告され、その半数以上が飲酒を伴っていたという。組み入れ研究のなかで重篤な有害事象が無かったことと、サウナに重篤なリスクが存在しないことは、別の話だ。心疾患・高血圧・糖尿病などの持病がある人、服薬中の人、妊娠中の人は、習慣にする前に主治医に相談してほしい。飲酒後に入らない、水分を取る、無理に長く我慢しない——このあたりは、効果の議論とは無関係に守る価値がある。

よくある質問(FAQ)

サウナに入ると寿命が延びるというのは本当ですか

そう言い切れる証拠はありません。2015年にフィンランドで発表されたコホート研究では、週1回の人と比べて週4〜7回の人の突然心臓死のハザード比が0.37(95%信頼区間 0.18–0.75)と報告されていますが、これは観察研究で得られた関連です。著者ら自身が、機序の確立にはさらなる研究が必要だと述べています。健康な人ほど頻繁にサウナに通える、という逆向きの説明もこのデザインでは排除できません。

サウナの効果は科学的に証明されているのですか

「証明」という言い方は現状に合いません。2018年の系統的レビューは40研究3,855人を集めていますが、ランダム化比較試験は13にとどまり、コクランの基準でバイアスリスクが低いと評価されたのは3研究のみでした。著者らは研究の多くが小規模であること、異質性が大きいことを明記しています。有益な報告が多いことと、強い証拠が積み上がっていることは別の話です。

サウナはうつや気分の落ち込みに効きますか

サウナで確かめられた話ではありません。よく引用される2016年のランダム化比較試験が扱ったのは全身温熱療法で、34人が無作為化された小規模な試験です。単回の介入がシャムと比べて6週間にわたりうつ症状の得点を下げた点は注目に値しますが、装置も条件もサウナとは異なります。気分の落ち込みや不眠が続いている場合は、まず医療機関に相談してください。

「ととのう」には科学的な裏づけがありますか

「ととのう」を正面から扱った研究は、2023年に PLOS ONE に発表された実験があります。健常な参加者20人をサウナ群10人と対照群10人(37℃の湯に浸かって休息)に分け、サウナ群が85〜90℃のサウナ・16℃の水風呂・休憩を3セット行ったあとに、シータ波とアルファ波のパワー増加、P300振幅の低下とMMN振幅の増加、反応時間の短縮、主観的なリラックス指標の変化が報告されました。ただし1群10人という規模で、追試もまだありません。著者全員が計測デバイスを開発する企業に所属し、開発中の製品と特許を利益相反として開示している点も、読むときには押さえておきたいところです。「裏づけがある」と言い切るには早く、測定が始まったばかり、というのが現状に近い表現です。

サウナが苦手なのは、体質的に向いていないからですか

「向き・不向き」で分けられるほど単純ではないと思います。サウナ室には熱以外にも、音・匂い・他人の気配・混雑といった刺激が同時にあり、どれが負担になるかは人によって違いますし、その日の疲労や混み具合でも変わります。刺激の量と快適さの関係に個人差があること自体は最適覚醒水準や感覚処理感受性の研究が扱ってきたテーマですが、そこから個人を分類できるわけではありません。合わない日に無理をしない、で足ります。