同じ喫茶店で同じ深煎りを飲んで、片方は「頭が冴えた」と言い、片方は夜中まで心臓がうるさかったと言う。私はどちらかというと後者で、しかも長いあいだ、それを自分の気の持ちようだと思っていた。
カフェインの記事はたいてい「効果」と「デメリット」を左右に並べて終わる。でも原典を読むと、面白いのはその手前にある。そもそも「効いている」のは何なのか、という問いのほうだ。
「冴えた」は、どこから来ているのか
出発点にしたいのは、Peter Rogers らが2010年に Neuropsychopharmacology に出した研究だ。参加者は379人。16時間カフェインを断ったうえで、無作為化・二重盲検・並行群間デザインで、100mgのカフェイン(またはプラセボ)を摂り、90分後にさらに150mg(またはプラセボ)を摂って、不安・覚醒・頭痛を評価している。
この研究がふつうの「カフェインで集中力アップ」論と大きく違うのは、普段よく飲む人と、ほとんど飲まない人を最初から分けて比較した点だ。そのうえで観察されたのが、次の結果になる。
カフェインは、どのグループでも、プラセボを受けた非摂取者の水準を超えて覚醒を高めなかった。 常用者がカフェインで感じる「冴えた」は、ゼロ地点からの上乗せではなく、断っているあいだに落ちた分の回復——つまり離脱の反転だった、というのが著者たちの読みだ。
正直、この結果を最初に読んだときは少し疑った。朝のコーヒーで頭が動き出す感覚は、あれだけはっきりしているのに。ただ考えてみると、私が比べているのは「飲んだ自分」と「まだ飲んでいない自分」であって、そもそも飲まない自分ではない。比較対象が最初からずれている。
もちろんこれは単一の研究であって、これでカフェインの覚醒効果が否定されたわけではない。ただ、「効いている」の内訳を疑う根拠としては十分に強い。覚醒水準そのものの考え方は最適覚醒水準にまとめてある。
不安が出る人と、出ない人を分けていたもの
同じ研究のもう一つの軸が、遺伝子だ。
カフェインは脳内でアデノシン受容体をふさぐ形で働く。その受容体をコードする遺伝子 ADORA2A の変異(rs5751876)で参加者を分けると、TT型の人はカフェインで不安が強く上がった。100mgとプラセボを比べたとき、8点尺度で TT型はおよそ0.67ポイントの上昇。CC型・CT型を合わせた群は0.11ポイントだった。
さらに habitual な摂取量による違いもはっきりしている。普段ほとんど飲まない人・少量の人では不安が上がり、中〜高頻度で飲む人では、どちらの遺伝子型でも不安は上がらなかった。
面白いのは、著者たちが予想を外した部分だ。もし不安が出やすい人がカフェインを避けるなら、常用者の中に TT型は少ないはず。ところが実際には、常用者の中では TT型のほうがむしろコーヒーを多く飲んでいた。避けるどころではなかったわけだ。
そして著者たちは、自分の結果に自分でブレーキをかけている。「確かに認められる効果ではあるが、挽きコーヒー一杯ぶんのカフェインによる不安の増加は大きくはない」。加えて、他研究で「非摂取者」とされた参加者の唾液から相応のカフェインが検出されていたことを引いて、自己申告の摂取量データは、その人が普段どれだけ飲んでいるかの指標として当てにならないことがあるとも書いている。この研究では唾液中の濃度を実測し、申告と合わない参加者を除いたうえで解析している。
だからこの知見は、「あなたはTT型だからカフェインをやめるべき」という使い方をするものではない。読み筋はもっと地味で、同じ一杯で違う反応が出るのは、気の持ちようではなく体の側の話でもありうる、というところまでだ。刺激の受け取り方に個人差があること自体は感覚処理感受性の研究でも扱われている。
「体質」を遺伝子で説明しきれるか
では遺伝子検査で自分のカフェイン耐性が分かるのか。ここは2024年に Journal of Translational Medicine に出た系統的レビューが役に立つ。
このレビューによれば、カフェイン摂取・代謝との関連が繰り返し報告されている遺伝子は限られている。CYP1A2 は15の研究で登場し、カフェイン代謝のおよそ95%を担う。CYP1A2 と制御経路でつながる AHR は11研究、ADORA2A・ABCG2・POR はそれぞれ5研究で報告されていた。効果量は、1つのアレルあたり1日のカップ数で3〜32%という幅になる。
ただし、レビューが並べている限界のほうが重要だと思う。
- カフェイン摂取量を測る、標準化され検証された評価尺度が存在しない
- 多くが後ろ向き研究で、想起バイアスの影響を受ける
- 非欧州系集団を対象にした研究が限られている
- CYP1A2 の rs762551 について、関連は白人では有意だったがアジア人では有意でなかった
- 代謝が遅い人は不快な作用のために摂取量が少ない可能性があり、「よく飲む=耐性がある」の解釈をややこしくしている
最後から2番目が、日本語で読んでいる私たちには効いてくる。rs762551 と摂取量の関連が集団によって再現しないなら、欧米のサンプルで出た知見をそのまま自分に当てはめるのは早い。遺伝子で体質を確定させる話は、少なくとも現時点では、レビューの側が慎重だ。
6時間前でも、眠りは削れている
デメリットの側で、いちばん再現しやすい実感につながるのが睡眠だと思う。
Drake らが2013年に Journal of Clinical Sleep Medicine に出した実験は、健康で睡眠に問題のない12人(女性6人・男性6人、平均29.3歳)を対象に、400mgのカフェインまたはプラセボを、就寝時・就寝3時間前・就寝6時間前に投与する無作為化二重盲検プラセボ対照のクロスオーバー(同じ人が全条件を経験する)デザインで行われた。400mgという量は、農林水産省が示すコーヒー浸出液の含有量(60mg/100mL、粉末10gを熱湯150mLで抽出)で換算すると、150mLのカップおよそ4杯強にあたる。
客観的な指標(睡眠計測)では、3つのどの時点でも、プラセボと比べて総睡眠時間が有意に減少した。減少幅は1.1〜1.2時間。就寝6時間前に飲んでも、である。
一方で主観のほうは鈍い。就寝6時間前の条件では、自己報告の総睡眠時間の41分減が有意水準に届かなかった(p = 0.08)。つまり眠りは削れているのに、本人はそれほど自覚していない。私が夕方のコーヒーを長く手放せなかった理由も、たぶんこれだ。「昨夜はちゃんと眠れた」という感覚を、根拠にしていた。
著者たちは限界も明記している。参加者が12人と少なく検出力が低いこと(被験者内で全条件を比べる設計ではあるが)、血中カフェイン濃度を測っていないこと、対象が若年〜中年で習慣的摂取が中程度の人に限られること。だから「6時間」という数字を魔法の境界線のように扱うのは行き過ぎだ。それでも、就寝前の時間帯を疑う根拠にはなる。何時に飲むかを考えるときは、朝型・夜型はどこまで生まれつきかで整理したクロノタイプの話とセットで見るといい。睡眠不足そのものの取り返し方については「睡眠負債」は本当に返せるのかに書いた。
上限の目安は、日本にはない
量の話も確認しておく。農林水産省のカフェインに関するページによれば、日本では独自の最大摂取量は設定されておらず、諸外国の値が参照されている。
- EFSA(欧州食品安全機関): 健康な成人で1日400mg、妊婦・授乳中は200mg
- Health Canada: 18歳以上の成人で1日400mg、妊婦・授乳中は300mg
- WHO: 妊婦で1日300mg
同ページは、過剰摂取による影響としてめまい、心拍数の増加、興奮、不安、震え、不眠を挙げ、長期的な作用としては人によっては高血圧のリスクが高くなる可能性、妊娠中の高濃度摂取で胎児の発育を阻害(低体重)する可能性が報告されているとしている。そして、子供・妊婦・授乳中の方・カフェインに敏感な方については、摂取量を少なくする手段としてカフェインを取り除いた製品を利用するのも選択肢の一つ、という書き方をしている。
400mgは、上の換算でいえばコーヒー4杯前後。ただしこれは「ここまで飲んでいい」ではなく「健康な成人でここを超えないほうがいい」という向きの数字で、敏感な人の目安ではない。動悸や不安、不眠が続くとき、あるいは妊娠中・授乳中や持病・服薬がある場合は、量を自分で調整する前に医師や薬剤師に相談してほしい。気分の落ち込みや不安が数週間続いて生活に支障が出ているなら、こころの耳(厚生労働省)などの相談窓口も使える。
私がやめたのは、量より「比べ方」
ここから先は研究の要約ではなく、私の運用の話だ。
カフェインを完全にやめる気は、正直いまもない。変えたのは飲み方より、効果の測り方のほうだった。「飲んだら冴えた」を効果の証拠にするのをやめて、飲まなかった日の午後がどうだったかを覚えておくようにした。Rogers らの結果を読んだあとだと、前者はほとんど何も証明していない気がしてくる。
もうひとつ変えたのは、夕方の一杯を「眠れたかどうか」で判断しないことだ。Drake らの実験で自覚が当てにならないと分かってしまうと、自分の主観をそのまま採点表に使えなくなる。いまは15時を過ぎたらカフェインレスに切り替えていて、劇的に何かが変わったという実感は……正直、ない。ないのだが、実感を根拠にしないと決めた以上、しばらく続けてみるつもりでいる。
昼の眠気そのものへの対処は、昼寝の効果はどこで反転するかのほうが実用的かもしれない。
よくある質問(FAQ)
カフェインに覚醒効果はないのですか
Rogers らの2010年の研究では、カフェインはどのグループでも、プラセボを受けた非摂取者の水準を超えて覚醒を高めませんでした。著者たちはこれを、常用者が感じる覚醒はカフェイン離脱の反転にあたるという読みで説明しています。ただしこれは単一の研究であり、カフェインの覚醒効果全般が否定されたわけではありません。「飲む前の自分」と比べるか「そもそも飲まない自分」と比べるかで見え方が変わる、という論点として受け取るのが正確です。
コーヒーで不安になるのは体質ですか
Rogers らの研究では、ADORA2A 遺伝子の変異(rs5751876)で TT型の人は100mgのカフェインで不安の上昇が大きく(8点尺度で約0.67ポイント、CC/CT型は0.11ポイント)、また普段ほとんど飲まない人では不安が上がる一方、中〜高頻度で飲む人では上がりませんでした。ただし著者自身が、確かに認められる効果ではあるが挽きコーヒー一杯ぶんのカフェインによる不安の増加は大きくはない、と書いています。遺伝子型で自分を分類するのではなく、量とタイミングを変えて反応を見るほうが現実的です。
カフェインは何時間前までなら眠りに影響しませんか
Drake らの2013年の実験では、400mgのカフェインを就寝時・3時間前・6時間前のいずれで摂っても、客観的な総睡眠時間がプラセボより1.1〜1.2時間有意に減少しました。しかも6時間前の条件では、自己報告での41分の減少が有意水準に届いておらず(p = 0.08)、本人の自覚と実際のずれが示されています。参加者12人の小規模な研究なので「6時間」を絶対的な境界とは読めませんが、夕方以降の一杯を疑う根拠にはなります。
1日にどれくらいまでなら大丈夫ですか
農林水産省のページによれば、日本では独自の最大摂取量は設定されておらず、EFSAが健康な成人で1日400mg(妊婦・授乳中200mg)、Health Canadaが成人400mg(妊婦・授乳中300mg)、WHOが妊婦300mgとしています。過剰摂取ではめまい、心拍数の増加、興奮、不安、震え、不眠が起こりうるとされ、同ページは子供・妊婦・授乳中の方・カフェインに敏感な方について、摂取量を少なくする手段としてカフェインを取り除いた製品を利用するのも選択肢の一つ、と記しています。妊娠中・授乳中、持病や服薬がある場合は自己判断で調整せず、医師や薬剤師に相談してください。
遺伝子検査でカフェイン耐性は分かりますか
2024年の系統的レビューは、CYP1A2(カフェイン代謝のおよそ95%を担う)や AHR、ADORA2A などの関連を報告する一方、カフェイン摂取量を測る標準化・検証済みの尺度が存在しないこと、想起バイアス、非欧州系集団の研究が限られること、CYP1A2 rs762551 の関連が白人では有意でもアジア人では有意でなかったことを限界として挙げています。傾向として研究されている段階であって、検査結果から個人の耐性を確定できる状態ではありません。
結局のところ、カフェインの効果とデメリットは、一杯に含まれるミリグラム数の話というより、自分がどこを基準に「効いた」と判断しているかの話に近い。夜、寝つきの悪さを枕やスマホのせいにしていた頃の私に、6時間前の実験のことだけは伝えておきたい。あれは、けっこう効く。