朝いちばんに白湯を飲むと代謝が上がる、めぐりが良くなる、冷えが取れる。白湯の効果としてよく並ぶこの話が、研究のどこに支えられているのかを一本ずつたどってみた。
先に言ってしまうと、いちばん有名な「代謝が30%上がる」という数字は、白湯ではなく22℃の水の研究から来ている。しかもその論文自身が、効果の内訳に「水を温める分」を数えていた。
「30%」はどこから来た数字なのか
出どころははっきりしている。Boschmann らが2003年に The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism に発表した研究だ。
健康で標準体重の14人(男性7人・女性7人)に500 mLの水を飲んでもらい、部屋ごと熱量を測るホールルーム式間接熱量測定でエネルギー消費と基質酸化を評価した。結果、代謝率は30%上昇。上昇は10分以内に始まり、30〜40分でピークに達した。総熱産生反応は約100 kJ。男性では主に脂質が、女性では主に糖質がこの上昇のエネルギー源になっていた。全身のβ受容体を遮断すると上昇は小さくなった。論文は「1日2Lの水を飲めばエネルギー消費は約400 kJ増える」と締めくくっている。
400 kJ はおよそ96 kcal。ここだけ切り取れば、たしかに毎朝コップ一杯を続けたくなる。
ただし論文には「約40%は水を温める分」と書いてある
同じ抄録にこうある。熱産生効果の約40%は、水を22℃から37℃へ温めることに由来する。
22℃は室温の水の温度で、37℃は体温だ。つまりこの40%は、体温より低い温度の水を体が体温まで温めるためのコストとして計上されている。
この一文は、あとで効いてくる。
追試は、きれいに割れている
2006年、Brown・Dulloo・Montani が同じ雑誌で正面から検証した。健康な若年の被験者に、体重1kgあたり7.5 mL(およそ518 mL)の室温の蒸留水、0.9%生理食塩水、そして陽性対照として7%ショ糖液を別々の日に飲んでもらい、飲む30分前から飲んだ後90分まで間接熱量測定で安静時エネルギー消費を測るランダム化クロスオーバー試験だ。
結果、蒸留水でも(P = 0.34)生理食塩水でも(P = 0.33)エネルギー消費は増えなかった。3つの飲料のうち有意に増えたのはショ糖液だけだった(P < 0.0001)。一部の被験者では3℃の冷水も試している。こちらは60分間で4.5%の上昇があり統計的にも有意だった(P < 0.01)が、著者らは水を体温まで温めるのに理論上必要なエネルギーコストを下回っていると書いている。
2015年には Charrière らが Nutrition & Diabetes に報告している。健康な成人27人(男性14人・女性13人、BMI 18.5〜33.9)に、換気フード式間接熱量測定でベースライン30分以上・飲用後130分を測定。500 mLの蒸留水を飲む条件と、グラスを口元まで運ぶだけの「飲むふり」条件を比べた。安静時エネルギー消費の上昇は3%未満で、飲むふりと統計的な差がなかった。この研究が使った水は21〜22℃。Boschmann らが用いたのとほぼ同じ量・同じ温度で再検証するため、と論文は書いている。
ただし「一度も再現されていない」わけではない
ここは正確に書いておきたい。Charrière らの論文の冒頭には、こう書かれている。「近年、他の2つの研究室もまた、水飲用後の安静時エネルギー消費の実質的な上昇を報告している」。名前も挙がっている。Kocełak らは1Lの水で標準体重の女性に12%、肥満の女性に20%の上昇(飲用後1時間)。Dubnov-Raz らは過体重の小児に体重1kgあたり10 mLの冷水を飲ませて、最大25%の上昇。加えて Boschmann ら自身も2007年に、過体重・肥満の成人で24%の上昇を報告している。
ちなみに陰性側も、フリブール大学の Dulloo・Montani のグループだけではない。同じ論文は、水を対照飲料として使ってきた過去の複数の研究でも、水飲用は安静時エネルギー消費にほとんど影響しなかったと整理している。
つまり実際の状況は「一本の報告が独り歩きしている」でも「一度も再現されていない」でもなく、上がったという報告と上がらなかった報告が、どちらも複数あるというものだ。
それでも、白湯にとっては同じ結論になる
面白いのはここからだ。上昇を報告した側の研究者が、その上昇を何に帰しているかを読むと、方向が揃ってくる。
Kocełak らの2012年の研究を見てみたい。45人の女性(肥満群と標準体重群)を対象に、朝と水負荷後の2回、間接熱量測定でエネルギー消費を測った研究だ。エネルギー消費は肥満群で20%、標準体重群で12%、それぞれ1時間あたり8.6 kcal と 5.2 kcal 増えている。ここまでは「水で代謝が上がる」側の報告だ。
ところが同じ論文の結果欄に、こう続く。「エネルギー消費の増加は、水を室温から体温まで温めるエネルギーコスト——1,000 mLあたり15 kcal——を超えなかった」。そして結論は、こうだ。「水負荷によって誘発されるエネルギー消費の増加は、主に、飲んだ水を体温まで温めることに関連している」。
同じ説明は、他の論文にも繰り返し出てくる。Boschmann らの2003年の「約40%は22℃から37℃への加温由来」。Brown らの「3℃の冷水では4.5%上がったが、体温まで温める理論コストを下回る」。
実は、原典は37℃の水も試していた
そして目を引くのは、Charrière らが Boschmann の原典について書き残しているこの一文だ。「Boschmann らの研究では、37℃の水を飲むと、飲用後の安静時エネルギー消費の上昇が、水を室温(22℃)から体温まで温めるのに必要と計算されるエネルギー量(500 mLで約30 kJ)にほぼ見合う分だけ減弱することが示されていた」。
37℃の水は、白湯そのものだ。温度を体温に合わせると、上昇はほぼ加温分に見合う分だけ減弱する。白湯に近い条件を直接扱った記述が、ここにある。
ただし機序が決着しているわけではない。上昇を交感神経の活性化に帰す見方もあれば(Boschmann らはβ受容体の遮断で上昇が小さくなることを示している)、水の浸透圧の低さに反応する仕組みに帰す見方もある。Brown らの2006年の研究は、まさにその浸透圧の影響を確かめることを目的の一つに掲げていた。結果は、浸透圧が低いはずの蒸留水でもエネルギー消費は増えず(P = 0.34)、等張の生理食塩水でも増えなかった(P = 0.33)。Charrière らはさらに、加温に要する熱の大半は熱産生の増加ではなく、末梢の血管収縮による熱放散の減少で賄われている可能性が高い、と論じている。
ここから先は私の読み方になるが、こう整理できると思う。上がるかどうかについては報告が割れている。けれど「なぜ上がるとされているのか」を追うと、水を体温まで温める分、という説明に何度も行き当たる。そして白湯には、体の側に残された温める仕事がない。代謝という文脈で白湯を選ぶ理由は、この文献群からは出てこない。
65℃という、効果とは別の線
温度について、効果よりはっきりした話がひとつある。
WHOの専門機関である国際がん研究機関(IARC)は、モノグラフ第116巻で 「65℃を超える非常に熱い飲み物を飲むことは、ヒトに対しておそらく発がん性がある(グループ2A)」 と評価した。対象は食道の扁平上皮がんで、ヒトでの発がん性の証拠は “limited evidence”(限定的)とされている。ちなみに通常の温度で飲むマテ茶は、証拠不十分としてグループ3(分類できない)だ。
限定的、という但し書きは軽くない。それでも、白湯の温度をどこに置くかを考えるとき、効果を狙って熱くする理由が見当たらない一方で、熱くしすぎない理由のほうには公的な評価が付いている。この非対称は、覚えておいて損がない。
熱いものが平気な人と、猫舌の人がいる。感覚の閾値の個人差は感覚処理感受性のような枠組みで研究されてきたが、それが口の中の熱耐性を説明するという研究を、私は見つけていない。確かなのは、65℃という線が感じ方ではなく温度計の側に引かれている、ということだけだ。
それでも、私は朝にケトルのスイッチを押す
ここまで書いておいて何だが、私は今朝も白湯を飲んだ。
ただしその理由は、もう代謝でも巡りでもない。眠い頭でキッチンに立ち、湯が沸くのを待って、熱すぎるからと少し冷ましてから飲む。この一連の間が、一日の始まりに区切りを入れてくれる。何かに効いているというより、手順が私を起こしているという感じに近い。マインドフルネスの研究が扱ってきたのも、こういう「注意の置き場所」のほうだ。
水分をとること自体には意味がある。頼りないのは「白湯が水より優れている」という上乗せの部分であって、コップ一杯の水そのものではない。入浴の効果を調べたときも、サウナを調べたときも、同じ構図に行き着いた。体に良いとされる習慣の多くは、効かないのではなく、語られている効き方と実際に確かめられている効き方がずれている。
なお、心臓や腎臓の病気で水分量に指示が出ている方は、飲む量を自己判断で増やさず主治医に確認してほしい。飲み込みにくさや胸のつかえが続く場合も、習慣の工夫ではなく受診の対象だと思う。朝の一杯をコーヒーにするか迷ったときは、カフェインの効果とデメリットのほうも参考にどうぞ。
よくある質問(FAQ)
白湯を飲むと代謝は上がりますか?
「500 mLの水で代謝率が30%上がる」と報告した2003年の研究があり、その後の追試は上昇を報告したものもしなかったものもあって割れています。ただし上昇を報告した側でも、Kocełak らの2012年の研究は「増加分は水を室温から体温まで温めるコスト(1,000 mLあたり15 kcal)を超えなかった」とし、結論を「主に水を体温まで温めることに関連している」としています。体温より温かい白湯には、その温める分がありません。実際、Charrière らによれば、Boschmann らの原典では37℃の水を飲むと上昇が加温分だけ減弱したことが示されています。
白湯と常温の水では、どちらがいいですか?
エネルギー消費の観点で、白湯が常温の水より優れていることを示した研究は見当たりません。むしろ上昇を報告してきた研究の多くは室温(22℃前後)の水を使っており、その上昇も「水を体温まで温めるコスト」で説明できる範囲にとどまる、という見方が複数の論文に出てきます。常温か白湯かは、飲みやすいほうを選んでよいと思います。
白湯は何℃くらいが適切ですか?
適温を定めた研究はありません。ただしIARCは、65℃を超える非常に熱い飲み物を飲むことをグループ2A(おそらく発がん性がある)と評価しています。効果を狙って熱くする根拠がない一方で、熱くしすぎないことには公的な評価が付いている、という状況です。
白湯にダイエット効果はありますか?
白湯によって体重が減ることを示した研究は見当たりません。水そのものの熱産生効果についても報告は割れており、上昇を報告した Kocełak らの研究でも、その分は水を体温まで温めるコストに帰されています。食前に水を飲むことをめぐる議論は別にありますが、それは温度ではなく胃に入る量の話で、白湯である必要はありません。
冷え性には効きますか?
温かいものを飲めば体は一時的に温まりますが、冷えの体質そのものが白湯で改善すると示した研究は見つけられませんでした。冷えが強く、しびれや色の変化を伴う場合は、別の原因が隠れていることもあります。気になる症状が続くときは医療機関に相談してください。