ワークエンゲージメントという言葉を調べていて、いちばん手が止まった数字がある。厚生労働省が令和元年版の『労働経済の分析』で示した、日本の正社員のスコアだ。総合スコアは3.42。その内訳を見ると、「熱意」が3.92と高い一方で、「活力」が2.78と低い。
誇りややりがいは感じている。なのに、そこから元気が湧いてこない。数字にするとこういう形になるのか、と思った。「働きがいがない」という一言でまとめられがちなものが、実は二つに割れている。
ワークエンゲージメントは、どう定義されたのか
概念の出所ははっきりしている。Wilmar Schaufeli らが2002年に Journal of Happiness Studies に発表した測定研究が、いまも引かれる定義を置いた。
そこでの定義は、活力(vigor)・熱意(dedication)・没頭(absorption)によって特徴づけられる、仕事に関する肯定的で充実した心理状態である。一時的で特定の対象に向かう状態ではなく、より持続的で広がりのある感情的・認知的状態を指す、と論文は明記している。
三つの中身も定義されている。
- 活力——働いている間の高い energy と精神的な回復力、仕事に労力を注ごうとする意志、困難に直面しても粘り続けること
- 熱意——意義を感じていること、誇り、鼓舞される感覚、そして挑戦しがいがあるという感覚
- 没頭——仕事に完全に集中し深く入り込んでいて、時間が速く過ぎ、仕事から自分を切り離しにくくなっている状態
三つ目について、論文は Csikszentmihalyi のフローに近いと述べつつ、フローが通常はもっと複雑で短時間の「ピーク体験」を指すのに対して、没頭はより持続的な状態だと区別している。ちなみに没頭という次元は、理論から演繹されたのではなく、約30件の詳細なインタビューを経て「エンゲージメントの重要な側面」として見つかった、という経緯も書かれている。

「燃え尽きの反対」は、データ上どうだったか
この概念は、そもそもバーンアウト(燃え尽き)研究から生まれた。バーンアウトを「仕事へのエンゲージメントの侵食」と言い換える発想が先にあり、その正の極を測ろうとしたのがこの尺度だ。日本語圏でも「ワーク・エンゲイジメントはバーンアウトの対極の概念」と紹介されることが多い。バーンアウトそのものは燃え尽き症候群とは何かに整理してある。
では、データはその想定を支持したのか。ここが面白いところだ。
2002年の研究は、スペイン・カステリョン大学の学部生314人と、スペインの12社(民間・公的)に勤める従業員619人という二つの標本で、バーンアウト尺度(MBI-GS)とエンゲージメント尺度の因子構造を同時に検証した。結果、バーンアウトの3因子構造(消耗・シニシズム・職務効力感)も、エンゲージメントの3因子構造(活力・熱意・没頭)も、どちらも確認された。ここまでは想定どおりだ。
問題は次だった。「バーンアウト」と「エンゲージメント」という2つの上位因子を置いたモデルは、データへの適合が優れているとは言えなかった。予想に反して、である。
代わりに最もよく適合したのは、別の分け方だった。ひとつは消耗とシニシズムからなる「バーンアウトの中核」、もうひとつはエンゲージメントの3尺度に職務効力感を加えたまとまり。この2つの潜在因子は負の関係にあったが、相関は標本1で−0.47、標本2で−0.62で、共有する分散は22%から38%にとどまった。
つまり、エンゲージメントとバーンアウトは負の関係にあるけれども、片方の裏返しがもう片方、という関係ではない。同じ物差しの両端ではなく、重なりを持った別々の物差しに近い。エンゲージメントが低いこととバーンアウトしていることは、同じではない。この区別は、しんどさの正体を見誤らないために地味に効くと思う。
日本の正社員は、どこが低いのか
冒頭の数字に戻る。厚生労働省『令和元年版 労働経済の分析』は、「働きがい」をワーク・エンゲイジメントの概念で分析した章を置いている。データは労働政策研究・研修機構が2019年に実施した調査の個票だ。
白書が示した正社員全体のスコアは3.42。内訳は熱意3.92、活力2.78。性別では女性のほうがやや高く、活力は男性より低いが熱意と没頭は男性より高い。年齢別では、若い社員のスコアが低い傾向にある。そして職位・職責が高くなるほどスコアは高くなっていく。
若手ほど低く、上に行くほど高い。ここは解釈が割れるところだと思う。裁量が増えるから上がるのか、上がる人がもともと高いのか、この横断データからは決まらない。ただ、白書が別の図で示している「働きがいの高い人の仕事に対する認識」——仕事を通じて成長できている、仕事への自信がある、キャリア展望が明確になっている、仕事の裁量度が高い、といった項目——を見ると、若手に薄くなりがちな要素がきれいに並んでいる。
白書はまた、活動水準と仕事への態度・認知という2軸で関連概念を整理した図も載せている。活動水準が高く態度が肯定的なところにワーク・エンゲイジメント、活動水準が高く態度が否定的なところにワーカホリズム、活動水準が低く否定的なところにバーンアウト、低く肯定的なところに職務満足感が置かれる。活力があることと、働きすぎることは、別の象限にあるという整理だ。
何がエンゲージメントと結びついているのか
規模の大きい証拠も出ている。Mazzetti らが2023年に Psychological Reports に発表したメタ分析は、仕事の要求度-資源(JD-R)モデルの枠組みで、113の独立標本から533の相関を統合した(k = 94、累積 n = 119,420)。
前提として、これは相関のメタ分析であって、因果を示すものではない。そのうえで結果を見る。
エンゲージメントと結びつきが強かったのは、個人資源(r = .48)と成長・発達に関わる資源(r = .45)だった。この2つは社会的資源(r = .36)や仕事の資源(r = .37)より強く、信頼区間が重ならないため統計的な差があると言える、と論文は述べている。なお組織資源(r = .47)とリーダーシップ(r = .46)も数値としては高いが、こちらは信頼区間が重なるため差があるとは結論できない、と論文自身が但し書きを置いている。
個別の変数のうち相関が強かったのは、レジリエンス(r = .57)、プロアクティビティ(r = .55)、楽観性(r = .55)、学習機会(r = .51)、自己効力感(r = .47)である。前の4つのうち学習機会は成長・発達資源側の項目で、残りが個人資源にあたる。ただしレジリエンスは4標本・764人と規模が小さく、信頼区間も .35〜.73 と広い。順位そのものを重く受け取る数字ではない。
一方で、先行要因として調べられた変数のうちいちばん弱かったのは同僚からの支援(r = .27)だった。職場の人間関係がすべてを決める、という語り口が世の中には多いけれど、少なくともこのメタ分析では、同僚支援はエンゲージメントとの結びつきが最も弱い変数だった。ここは、人づきあいに消耗しやすい人にとって、地味に朗報かもしれない。
結果側では、職務満足(r = .60)と仕事へのコミットメント(job commitment、r = .63)が最も強く、離職意向(r = −.43)とパフォーマンス(r = .49)が中〜高程度。一方、仕事に限定されない全般的な健康(r = .37)、心理的ディストレス(r = −.37)、人生満足度(r = .38)との相関は相対的に弱い。仕事のエンゲージメントは、人生全体の幸福とイコールではない——数字はそう読める。
もうひとつ、3次元の内訳の話がある。没頭は、活力・熱意に比べて、調べたすべての変数との効果が小さかったと論文は報告している。ただし信頼区間から統計的な差が確認できたのは、離職意向と職務満足の2つに限られる。時間を忘れて入り込むことは、エンゲージメントの気持ちのいい部分だけれど、成果や定着との結びつきという点では、少なくとも弱い側の成分らしい。
「働きがい」と「働きすぎ」は、どのくらい離れているか
ここは注意して読みたいところだ。
白書のデータでは、働きがい(WEスコア)が低い層で過度なストレス・疲労のスコアが最も高く(3.86)、働きがいが上がるにつれて概ね低くなっていく。逆にワーカホリックな状態(WHスコア)のほうは、上がるほどストレス・疲労のスコアも上がり、最も高い層で5.24に達する。この対比だけ見れば、話はきれいだ。
ところが白書は、同じページでこう書いている。働きがいとワーカホリックな状態との間には、弱い正の相関が確認される。そして企業に対して、ワーカホリックな労働者を称えるような職場環境を見直すなど、働き方をめぐる企業風土の在り方を検討する必要がある、と続けている。
同じねじれが、個人の動機づけの水準でも観察されている。van Beek らが2012年に Applied Psychology: An International Review に発表した研究は、中国の医療従事者(看護師544人と医師216人)を対象に、自己決定理論の枠組みでワーカホリズム・ワークエンゲージメント・バーンアウトの動機づけの相関を調べたものだ。
結果、エンゲージメントの高さは主に内発的動機づけの高さと結びついていた。仕事そのものを興味深く、楽しく、満足のいくものとして経験している、という筋になる。ここまでは予想どおりだ。
だが同時に、エンゲージメントは取り入れ的調整(introjected regulation)および同一化的調整とも正の関連を示した。取り入れ的調整とは、自己価値や社会的承認の外的基準を、完全には自分のものとしないまま取り込んでいる状態を指す。基準を満たせば自尊心が上がるが、満たせなければ自己批判と否定的な感情が来る。論文は、エンゲージメントの高い従業員も少なくともある程度の内的な圧力を経験しているようだ、と述べている。ワーカホリズムのほうも、取り入れ的調整および同一化的調整と正の関連を示していた。
公平のために書いておくと、論文は同時に、エンゲージメントと各種の動機づけ調整との正の関連は自律的な動機づけであるほど強かったとし、エンゲージメントの高い従業員は主に自律的な動機づけによって動いている、とも結論している。内的圧力が主役だという話ではない。
なお著者ら自身が、この研究は横断デザインであるため因果関係を検討できないと明記している。単一の研究であることも含めて、決着した話ではない。
それでも、この二つの資料が同じ方向を指しているのは気になる。「働きがいがある」と「休むと罪悪感がある」は、思っているほど遠くない。私自身、いちばん仕事が面白かった時期のことを、いま思い返すと少し怖い。あれは活力だったのか、それとも降りられなくなっていただけなのか、正直まだ判定がついていない。
静かな人の「活力」は、見えにくいだけかもしれない
ここから先は研究の要約ではなく、私の受け取り方だ。
活力という訳語には、どうしても外向的な絵がついてくる。声が大きい、テンションが高い、朝から元気。でも原典の定義を読み直すと、活力の中身は「働いている間のエネルギーと精神的な回復力」「労力を注ごうとする意志」「困難に直面しても粘ること」だった。声量の話は、どこにも書かれていない。 外向性と内向性の枠組みそのものは内向性と外向性に整理してある。
刺激の量と力の出方の関係については最適覚醒水準の考え方が参考になる。静かな環境でこそ活力が出る人は、オープンオフィスでスコアを測られたら低く出るのではないか——と私は思っている。ただしこれは今回読んだ4本のどれにも書かれていない、私の仮説にすぎない。測定環境がスコアに与える影響を調べた研究には、今回は当たれなかった。
そして、Mazzetti らのメタ分析で個人資源と成長資源が上位に来ていたことを踏まえると、「働きがい」を上げる入口は、学べているという実感と次の見通しのあたりにありそうだ。裁量についてはメタ分析側の数字はむしろ控えめで(job control は r = .34 で、論文が「弱い側」に分類した仕事の資源のカテゴリに入る)、これを推しているのは厚労省白書のほうの図になる。なお同じ図には「仕事の遂行に当たっての人間関係が良好である」も並んでいるので、人づきあいは要らないという読み方はできない。それが今の職場でどうしても得られないなら、環境そのものを変える選択肢は真っ当だ。仕事そのものへの違和感が続いているなら「仕事が向いてない気がする」を研究で分解するを、環境を変える側に踏み出すなら内向型の転職サイト・エージェント完全ガイドに、実務的なところをまとめてある。
最後にひとつ。エンゲージメントが低い状態が続くこと自体は病気ではありません。ただ、眠れない、食欲が落ちた、休日も回復しない、日常生活に支障が出ている——そうした状態があるなら、働き方の工夫より先に医療機関や産業医に相談してください。厚生労働省のこころの耳から相談窓口を探すことができます。
よくある質問(FAQ)
ワークエンゲージメントとは何ですか?
Schaufeli らが2002年に Journal of Happiness Studies で示した定義では、活力(vigor)・熱意(dedication)・没頭(absorption)によって特徴づけられる、仕事に関する肯定的で充実した心理状態を指します。活力は働いている間のエネルギーと精神的な回復力、労力を注ごうとする意志、困難でも粘り続けること。熱意は意義・誇り・鼓舞される感覚・挑戦しがいがあるという感覚。没頭は仕事に完全に集中し深く入り込み、時間が速く過ぎる状態です。一時的な気分ではなく、より持続的で広がりのある状態として定義されています。
ワークエンゲージメントはバーンアウトの正反対なのですか?
「対極の概念」として提唱されましたが、データはその単純な形を支持しませんでした。Schaufeli ら(2002)が大学生314人と従業員619人で行った確認的因子分析では、「バーンアウト」と「エンゲージメント」という2つの上位因子を置いたモデルは優れた適合を示しませんでした。最もよく適合したのは、消耗とシニシズムからなる「バーンアウトの中核」と、エンゲージメント3尺度+職務効力感というまとまりに分ける形で、両者の相関は−0.47〜−0.62、共有分散は22〜38%にとどまりました。負の関係はあるが、同じ物差しの両端ではない、という結果です。
日本のワークエンゲージメントのスコアはどのくらいですか?
厚生労働省『令和元年版 労働経済の分析』(労働政策研究・研修機構が2019年に実施した調査の個票を用いた分析)では、正社員全体のワーク・エンゲイジメント・スコアは3.42でした。内訳は熱意3.92に対し活力2.78で、熱意が高く活力が低い形になっています。性別では女性がやや高く、活力は男性より低い一方で熱意と没頭は男性より高い結果でした。年齢別では若い社員のスコアが低い傾向があり、職位・職責が高くなるほどスコアは高くなる傾向が示されています。
ワークエンゲージメントを高めるには何が効きますか?
Mazzetti ら(2023)が113の独立標本・累積11万9,420人のデータを統合したメタ分析では、エンゲージメントとの相関が最も強かったのは個人資源(r = .48)と成長・発達に関わる資源(r = .45)でした。個人資源の内訳ではレジリエンス(r = .57)、プロアクティビティ(r = .55)、楽観性(r = .55)、自己効力感(r = .47)が上位です。一方、同僚からの支援は r = .27 で、先行要因として調べられた変数の中では最も弱い関連でした。ただしこれは相関のメタ分析であり、「これをすれば上がる」という因果を示すものではありません。
働きがいが高いことと、働きすぎは違うのですか?
概念としては別の象限に置かれますが、実データでは無関係ではありません。厚生労働省『令和元年版 労働経済の分析』は、働きがい(WEスコア)とワーカホリックな状態(WHスコア)との間に弱い正の相関が確認されるとし、ワーカホリックな労働者を称えるような職場環境の見直しを企業に求めています。また van Beek ら(2012、中国の看護師544人・医師216人)は、エンゲージメントが内発的動機づけと結びつく一方で、取り入れ的調整(外的な自己価値基準を取り込んだ状態)とも正の関連を示し、エンゲージメントの高い従業員も一定の内的圧力を経験しているようだと述べています。ただしこの研究は横断デザインで、因果関係は検討できていません。
なお、眠れない・食欲が落ちた・休日も回復しないといった状態が続く場合は、働き方の工夫だけで対処しようとせず、医療機関や産業医に相談してください。厚生労働省のこころの耳から相談窓口を探すことができます。
調べ終えて残ったのは、「働きがい」という日本語の便利さと不便さだった。
一語でまとめてしまうと、熱意が3.92で活力が2.78だという事実が見えなくなる。誇りは持てているのに元気が出ない人に、「やりがいを見つけよう」と言っても届かないのは当然だ。足りていないのは意味づけではなく、エネルギーのほうなのだから。
もうひとつ。エンゲージメントは、人生満足度との相関(r = .38)より、職務満足との相関(r = .60)のほうがずっと強かった。仕事に燃えていることと、生きていて満足なことは、思ったよりも別々に動く。どちらを上げたいのかを取り違えないだけで、打ち手はかなり変わってくるはずだ。