コワーキングスペースの見学に行くと、たいてい案内されるのは「いちばん見栄えのする場所」だ。吹き抜けのラウンジ、大きな観葉植物、コーヒーマシン。写真映えする一角を回って、料金表を渡されて終わる。
でも実際に契約して通いはじめると、体感を決めていたのはそこではなかった。フリーアドレスの島席に座った初日、斜め前の人が始めたオンライン商談の声が、二時間ずっと耳に入り続けた。内容まではっきり聞こえるわけではない。だからこそ、意識が何度もそちらへ引っ張られた。作業は進まないのに疲れだけが溜まっていく、あの感じ。
内向型の働く場所選びで効いてくるのは、内装でも料金でもなく、この「削られ方」のほうだと思う。ではその削られ方について、研究はどこまで具体的に語っているのか。出典をたどって整理してみたい。

オフィスの「形」で何が変わるのか——46本を突き合わせた比較レビュー
まず押さえておきたいのが、空間の形式そのものを比較した研究の蓄積だ。コワーキングスペースを直接扱った研究ではないが、そこで採用されている座席形式は、オフィス研究が扱ってきた類型とほぼ重なる。
GerlitzとHülsbeckが2023年に『Management Review Quarterly』誌に発表した系統的レビューは、2005年から2022年に発表された文献をデータベース横断で探索し、429件から条件を満たす46件を選んで比較したものだ。比べているのは三つの形式——個室(単独オフィス)、ABW(アクティビティ・ベースド・ワーキング。作業内容に応じて席を移る方式)、そしてオープンプランオフィスである。
並び順は、おおむね一定していた
このレビューが示した傾向は、個人の成果でも満足度でも、個室が最も良く、オープンプランが最も低い、という並びだった。ABWはその中間で、導入の仕方によって結果が大きく分かれている。
気の散りやすさも同じ順序で並ぶ。最も少ないのが個室、次いでABW、最も大きいのがオープンプランだった。健康面についても、長期的な指標はオープンプランで悪化する傾向が報告されている。病欠についてレビューは、Pejtersenらの2011年の研究を引きながら、共有オフィスとオープンプランの在席者は、個室の在席者より病欠日数が有意に多いと述べている。オープンプランだけの話ではなく、共有オフィスも同じ側に置かれている点は押さえておきたい。
ただし読み方には注意が要る。これは46本の実証研究を突き合わせた比較レビューであって、効果量を統計的に統合したメタ分析ではない。「オープンプランに移れば必ずこうなる」と因果として読める強度ではないし、対象も主に企業オフィスであって、自分の意思で通う場所を選んでいるコワーキングの利用者とは前提が違う。
「45デシベル」という具体的な目安
このレビューのなかで、見学に持っていける数字がひとつあった。ただし出どころは正確に書いておきたい。これはレビューが46本から導き出した知見ではなく、レビューが紹介しているRoelofsen(2008)の推奨値である。会話が起こりうるオフィスでは、理想は45 dB(A)程度、48 dB(A)を超えないこと、という目安だ。
つまりエビデンスの強さとしては、系統的レビューの結論ではなく、そこで引用されている一つの文献の推奨値にとどまる。それでも、席を比べるときの物差しとしては使える。
スマートフォンの騒音計アプリで測れば桁は掴める(機種差があるので絶対値は当てにならないが、席ごとの相対比較には使える)。私は見学のとき、案内された席と、いちばん隅の席で数値を見比べるようにしている。ラウンジと集中席で10 dB以上開いている施設は、少なくとも「静かな場所を作る意思がある」ということだ。
1,078人の調査が写した、開放空間での過ごし方
もう少し生活の解像度で見たい。Di Blasioらが2019年に『International Journal of Environmental Research and Public Health』誌に発表した横断調査は、イタリアの企業・研究機関・大学で働く1,078名を対象に、2017年9〜11月にオンラインで実施されたものだ。回答者の55%が2〜5人の共有オフィス、45%が5人超のオープンプランで働いていた。
焦点は「無関係な会話音(irrelevant speech)」——同僚の雑談、電話、笑い声にある。
結果として、会話音による苛立ちはオープンプランのほうが有意に大きく、生産性が落ちたという自己報告も、大きいほうの部屋で強く出ていた(比べているのは「2〜5人」と「5人超」の二区分であって、人数に沿った連続的な勾配を示したものではない)。感情面・社会面の訴えは共有6%に対しオープンプラン9%、疲労や頭痛といった身体症状は4%に対し9%と、いずれもオープンプランで増えていた。倍近い差ではあるが、絶対値はどちらも1割に届いていない。
集中困難の数字と、対処の分かれ方
集中しづらいと答えた人は、両方の環境を通じておよそ70%にのぼっている。少人数の共有オフィスであっても、集中の難しさ自体は広く報告されていた。
ただしこの70%を、働く人一般の割合として読むことはできない。論文自身が、回答率が17%であること、そして「オフィスの会話音に悩まされている人ほど回答しやすかった可能性がある」という自己選択バイアスを、限界として明記している。あくまで、この調査に答えた人たちのなかでの割合だ。
対処の仕方には、もう少しはっきりした差が出ていた。共有オフィスでは、休憩を取る・場所を変える・在宅で作業するといった行動的な対処が最も多く(34%)、オープンプランではヘッドホンなどの機器による対処が最多だった(32%)。ヘッドホン利用は共有22%に対しオープンプラン32%、行動的対処は共有34%に対しオープンプラン23%である。
もっとも、どちらも「最も多い対処が3割前後」という水準で、群間差の有意性も p = 0.05 と境界的だ。オープンプランでも行動で対処している人は相当数いる。
ここから先は研究というより私の読み方だが、この傾きは個人の工夫の差というより、環境が許している選択肢の差を映しているように見える。逃げ込める小部屋があるなら人は移動するし、無いなら耳をふさぐことになる。同じ「対策している」でも、選べる余地が残っているかどうかで、消耗の仕方はかなり違うはずだ。
見学のときにラウンジの雰囲気ではなく「移動先があるか」を見るようになったのは、この調査を読んでからだった。
「内向型には静けさが要る」はどこまで言えるのか
ここで一度、慎重になっておきたい。音に弱いかどうかを性格で決めつける話に、簡単に滑ってしまうからだ。
76人の実験が示したこと
古典的な研究がある。FurnhamとStrbacが2002年に『Ergonomics』誌に発表した実験だ。ただし、そのまま職場の話に接続する前に、対象を書いておく必要がある。参加者は76名の「シックスフォーム」の生徒——日本でいえば高校生にあたる年代で、平均年齢は内向型群17.39歳、外向型群16.75歳だった。EPQ(アイゼンク性格検査)の中央値で二群に分けている。
設計も押さえておきたい。これは被験者間計画で、一人の参加者が経験するのは静寂・背景音楽・オフィス騒音のうち一条件だけだ。同じ人が三条件を回ったわけではない。
そのうえで結果を見ると、二段構えになっていた。まず、静寂の条件では内向型と外向型の読解成績に差がなかった。そして音楽や騒音が加わると、読解課題で性格と背景音の交互作用が有意になり、内向型のほうが成績を落としている。
一方で、同じ交互作用は散文の再生や暗算では確認されなかった。統計的には「弱い傾向」ですらなく、有意ではないという結果だ。さらに背景音そのものの主効果を見ても、読解と散文再生では静寂より音楽・騒音のほうが成績が低かったのに対し、暗算課題では背景音の主効果自体が有意にならなかった。「音があると誰でも成績が落ちる」と一般化できる結果ではない。
背景にあるのは、外向性を大脳の覚醒水準の違いとして説明するアイゼンクの理論で、外向型は覚醒が低めなので外から刺激を足しに行き、内向型はもともと高めなので刺激を減らそうとする、という枠組みだ(最適覚醒水準)。
そして、それを一枚岩にしない研究
ただ、この話には続きがある。Küssnerが2017年に『Frontiers in Psychology』誌に発表したミニレビューは、まさにこの領域の知見が食い違っていることを主題にしたものだ。
アイゼンクの理論と整合する結果——内向型のほうが背景音楽で成績を落とす——を報告した研究がある一方で、読解・論理推論・記憶・数的課題などにおいて外向性と背景条件の交互作用が見つからなかった研究も複数ある、とレビューは整理している。著者の総括は、理論を支持する証拠と支持しない証拠が同程度にある、というものだ。そのうえで、覚醒の指標としてアルファ波ではなくベータ波を見る可能性や、課題中に流し続けるより課題前に集中して聴くほうが有効かもしれない、という新しい見方を提案している。
つまり現時点で言えるのは、「静けさが要るかどうかは人によって違い、その違いが性格特性でどこまで説明できるかは、まだ決着していない」ということだ。高校生76名を対象にした実験ひとつで「内向型は騒音に弱い」と証明されたわけではないし、その結果を成人の職場にそのまま持ち込めるかどうかも、この研究からは分からない。
正直に言えば、自分がどちらなのかは、性格の自己認識より実地で確かめたほうが早い。数字より、同じ作業を二つの席でやってみたときの手触りのほうが、はるかに信用できる。
見学のときに確かめている五つのこと
ここからは研究の要約ではなく、上の知見を自分なりに翻訳した見方として読んでほしい。
1. 席の種類が何段階あるか。 オープンな島席しかない施設は、うまくいかなかったときの逃げ場がない。オープンプランで機器による対処が最多になっていたのも、移動という選択肢が薄い環境だからだろう。個室ブース、集中席、ラウンジと段階があるほど、その日のコンディションに合わせられる。
2. 通話がどこで行われるか。 いちばん効いてくるのは、音量よりも人の声だ。通話専用ブースがあるか、無いなら通話はどこでしているのか。「席で普通に話していい」運用なら、その施設は自分には向かないと判断していい。
3. 静かな席が予約できるか。 早い者勝ちの静かな席は、静かな席ではない。行ってみないと座れるか分からない状態は、それ自体が消耗になる。
4. 空いている時間帯に、本番と同じ作業を試す。 ドロップインの体験は、たいてい空いている時間に案内される。混雑時に一度行くのが確実だが、難しければ、少なくとも眺めるだけで終わらせず、実際に手を動かす作業を30分やってみる。
5. 帰り道の疲れ方を覚えておく。 作業量は記録に残るが、消耗は残らない。私は施設を比べるとき、進んだ分量より「帰りの電車で何もする気が起きなかったかどうか」を思い出すようにしている。
音を耳の側で塞ぐ方法についてはHSPのオフィス刺激対策グッズで、道具ごとの検証状況は耳栓の効果はどこまで示されているかで整理している。そもそも通うべきかを含めて考えるなら、リモートワークが向いていると言われる理由のほうも合わせて読んでもらえるといいかもしれない。
よくある質問(FAQ)
内向型にコワーキングスペースは向いていないのですか?
そう言い切れる根拠は見当たりません。ここで紹介した研究が比べているのは人ではなく空間の形式です。GerlitzとHülsbeckの比較レビュー(46本)では、個人の成果・満足度・気の散りにくさのいずれでも個室が最も良く、オープンプランが最も低いという並びでしたが、これはオフィスの形式の話であって、特定の気質の人が施設に通うべきかどうかを検証したものではありません。判断材料としては、施設の平均ではなく「自分が座る席がどの形式か」を見るほうが実用的です。
静かな席さえあれば大丈夫でしょうか?
静けさは重要な条件ですが、それだけを見ると足りない部分があります。Di Blasioらの調査(1,078名)では、集中しづらいという回答は共有オフィス・オープンプランの両方でおよそ70%にのぼっていました(ただし回答率は17%で、論文自身が「騒音に悩む人ほど回答しやすかった可能性」を限界として挙げています。一般的な発生率としては読めません)。差が出たのは対処の仕方で、共有オフィスでは休憩・移動・在宅といった行動的な対処が最多(34%)、オープンプランではヘッドホンなどの機器が最多(32%)でした。もっともどちらも3割前後で、群間差の有意性も p = 0.05 と境界的です。静かな席が「ひとつある」ことより、調子に応じて移れる段階があることのほうを、私は重く見ています。
内向型は本当に騒音に弱いのですか?
一枚岩の結論は出ていません。FurnhamとStrbacの実験では、静寂では両群の読解成績に差がなく、音楽やオフィス騒音が加わると読解課題で内向型の成績が落ちるという交互作用が確認されました。ただし同じ交互作用は散文再生・暗算では有意になっておらず、参加者は76名の高校生年代(平均16〜17歳)で、一人が一条件だけを受ける被験者間計画です。成人の職場にそのまま当てはめられる設計ではありません。さらにKüssnerの2017年のミニレビューは、この領域で知見が食い違っていることを主題にしており、外向性と背景条件の交互作用が見つからなかった研究も複数あり、支持する証拠と支持しない証拠が同程度に存在すると総括しています。単一の実験を「証明」として扱うことはできません。自分がどうかは、性格の分類より実地の試行で確かめるほうが確実です。
施設の静かさを見学で判断する方法はありますか?
GerlitzとHülsbeckのレビューには、会話が起こりうるオフィスでは背景騒音は45 dB(A)程度が理想で48 dB(A)を超えないこと、という目安が紹介されています。ただしこれはレビューが46本から導いた結論ではなく、レビューが引用しているRoelofsen(2008)の推奨値です。エビデンスの強さとしては一文献の推奨にとどまります。スマートフォンの騒音計アプリは絶対値の精度こそ期待できませんが、同じ端末で席ごとに測れば相対的な差は掴めます。加えて、Di Blasioらの調査で問題の中心にあったのは音量そのものではなく会話音でしたから、数値と併せて「通話がどこで行われる運用か」を確認すると、判断の精度は上がります。
カフェとコワーキングスペースはどちらがいいですか?
両者を直接比較した信頼できるデータは、今回の調査では見つけられませんでした。ですので以下は研究の裏づけではなく、整理としての見方になります。ここまでの知見で共通していたのは、聞き取れてしまう人の声が負担になりやすいことと、選べる席の段階があるほど対処の幅が広がることの二点です。この軸で見ると、カフェは席の段階を選べない代わりに会話が背景に溶けやすく、コワーキングは席を選べる代わりに通話の声が近い、という違いになります。どちらが向くかは、その日の作業が読み書きなのか、単純作業なのかによっても変わります。
契約して三か月ほど経った頃、いちばん奥の窓際の席が空いているとほっとする自分に気づいた。同じ料金を払っているのに、座る場所で日の終わり方が変わる。
研究のほうは、部屋の形と成果の関係を淡々と並べているだけだ。個室が良く、開放空間が振るわない。会話音が効いてくる。そして「静けさが要るかどうか」の個人差については、まだ言い切らずにいる。それを知ったところで自分に合う席が見つかるわけではないけれど、内装のきれいさで選ばなくなっただけでも、収穫だったと思っている。