耳栓の効果について調べようとすると、たいてい遮音値(NRR)の比較表にたどり着く。何デシベル下げられるか、という話だ。でも実際に使ってみると、数字が大きいほど楽になるわけではないことにすぐ気づく。エアコンの唸りが消えても、隣の席の雑談が聞こえていれば集中は戻らない。逆に、雑談さえ遠のけば、空調の音は残っていても構わない。
つまり問題は音量だけではなく、どの音かのほうにある。この直感が研究でどこまで裏づけられるのか、出典をたどって整理してみたい。

242研究を統合したメタ分析が、音を種類で分けている
SzalmaとHancockが2011年に『Psychological Bulletin』誌に発表したメタ分析は、騒音が人の遂行に与える影響を扱った研究を大規模に統合したものだ。242研究から得られた797の効果量を、音の性質や課題の種類ごとに切り分けている。
まず、音の種類で見た結果がはっきりしていた。
| 音の種類 | 効果量 g | 95%信頼区間 |
|---|---|---|
| 会話(speech) | −0.43 | −0.56 〜 −0.30 |
| 会話以外(nonspeech) | −0.16 | −0.24 〜 −0.08 |
| 音楽 | 0.09 | ゼロを含む |
会話音はg = −0.43と小〜中程度の負の効果を示し、会話以外の音(−0.16)よりはっきり大きかった。音楽については95%信頼区間がゼロを含んでおり、論文自身も、研究数が少なく分散が大きいため音楽の影響は現時点では確定できないと述べている。
さらに、鳴り方(断続か連続か)と組み合わせたところが面白い。
| 組み合わせ | 効果量 g | 95%信頼区間 |
|---|---|---|
| 断続する会話音 | −0.80 | −0.97 〜 −0.63 |
| 連続する会話音 | −0.32 | ゼロを含む |
| 断続する非会話音 | 0.06 | ゼロを含む |
| 連続する非会話音 | −0.24 | −0.34 〜 −0.15 |
断続する会話音だけが、突出して大きい。g = −0.80は、この「音の種類 × 鳴り方」の分析のなかで最も大きい負の効果だった。一方、断続する非会話音は信頼区間がゼロをまたいでいて、実質的な影響が確認できていない。
念のため断っておくと、これはメタ分析全体で最大の値という意味ではない。別の切り口では、短時間の低強度暴露で g = −1.58 という、さらに大きな効果も報告されている。また会話音については、外れ値を除くと g が −0.43 から −0.84 に拡大したとも書かれていて、「会話音がとくに邪魔になる」という結論そのものは頑健に見える。
止まったり始まったりする、人の声。オフィスでいえば、席の後ろで断続的に交わされる雑談や、隣のブースの電話。それが最も成績を落としていた、ということになる。
落ちるのは速さではなく、正確さのほう
もう一つ、指標による差もあった。騒音は正確さにg = −0.43の負の効果を示した一方、反応の速さへの影響は**−0.14とごく小さい。課題別に見ると、認知課題の正確さは−0.50、コミュニケーション課題の正確さは−0.64。知覚課題の正確さは−0.06**で、信頼区間はゼロを含んでいた。
騒がしくても手は止まらない。ただ間違える。この落ち方は、体感とよく合うと思う。うるさい部屋で作業したあと、時間そのものは普通にかかっていて、あとで見返すと抜けが多い。
慣れは、ある程度は起きる
暴露時間で分けた結果も報告されている。短時間(中央値1.1分での分割)の暴露ではg = −0.70と中〜大の効果だったのに対し、長時間では−0.28まで小さくなった。両者の信頼区間は重なっていない。論文はこの減衰について、騒音ストレスへの適応能力によるものかもしれないと述べている。
ただし、これは実験室での短い課題の話だ。八時間そこで働くことの累積を測ったものではない。
「耳栓の効果」を、この研究から直接には言えない
ここは正直に置いておきたい。SzalmaとHancockが調べたのは、騒音が遂行に与える影響であって、耳栓という道具の効果ではない。耳栓群と非耳栓群を比べた研究ではない。
だから厳密には、このメタ分析が示すのは「会話音、とくに断続する会話音が成績を大きく落とす」ところまでだ。そこから「その音を減らせば戻る」と続けるのは、一段の推論を挟んでいる。妥当そうな推論だとは思うが、検証済みの事実として書くべきではない。
そのうえで、この結果には実践的な含みがあると思っている。耳栓やノイズキャンセリングを選ぶとき、私たちはつい「どれだけ静かになるか」で比べる。でもこの研究が名指ししたのは、音量ではなく音の内容と鳴り方だった。ならば、選ぶ基準は「人の声を、断続の形のまま届かせないこと」に寄せたほうがいい。個人的には、この視点に変えてから買い物の失敗が減った。
騒音そのものへの対処の全体像はHSPが音に敏感すぎて辛い原因と対処法に、グッズ側の整理はオフィス刺激対策グッズにまとめてある。
オフィスの実態調査でも、声が主役だった
実験室の外ではどうか。Di Blasioらが2019年に『International Journal of Environmental Research and Public Health』誌に発表した横断調査は、1,078名(共有オフィス597名、オープンプランオフィス481名)を対象に、無関係な会話音(irrelevant speech noise)の影響を尋ねている。
オフィスで人が話していることをどれくらい煩わしく感じるかを、1(まったく)から5(極度に)の5段階で尋ねた設問では、オープンプランで働く人の平均が3.07、共有オフィスが2.54で、オープンプランのほうが有意に高かった。無関係な会話音の影響として集中の低下を主な影響に挙げた人は、共有オフィスで69%、オープンプランで66%。オープンプランでは、雑談が「作業を中断させる」「成績を下げる」という項目への同意がとくに強かった。
対処のしかたにも差が出ている。ヘッドホン類などの技術的な解決を主な手段とした人は共有オフィスで22%、オープンプランで32%。逆に、休憩を取る・場所や作業を変える・在宅で働く・ドアを閉めるといった行動的な対処は、共有オフィスで34%、オープンプランで23%だった。
これは自己申告の横断調査なので、原因と結果の向きを決めるものではない。それでも、実験室で最も強い妨害だった「人の声」が、実際の職場でも苦情の中心にあることは読み取れる。閉じられるドアがない場所では、耳のほうを閉じるしかない、ということでもある。
眠りへの効果は、どこまで検証されているか
耳栓の話で最も検証が進んでいるのは、実は集中ではなく睡眠のほうだ。ただし、対象がかなり特殊な場所に偏っている。
Karimiらが2021年に『Frontiers in Psychiatry』誌に発表した系統的レビュー・メタ分析は、35研究・2,687名(うち21研究をメタ分析に投入)を統合し、集中治療室(ICU)という文脈でのアイマスク・耳栓の効果を調べている。
| 指標 | 効果 | 95%信頼区間 | 統合された研究 |
|---|---|---|---|
| PSQI(点数が低いほど良い) | −5.02点 | −6.16 〜 −3.89 | 5研究・312名(実患者) |
| RCSQ(点数が高いほど良い) | +11.46点 | 7.04 〜 15.88 | 実患者 |
| 総睡眠時間(睡眠ポリグラフ) | +25.47分 | 8.05 〜 42.90 | 3研究(模擬ICU環境の健常者) |
| 中途覚醒 | −8.40回 | −10.15 〜 −6.64 | 同上 |
この表を読むときに、二つ気をつけたいことがある。
一つめは、行によって対象が違うこと。PSQIの−5.02点は、ICUやCCUに入院している実際の患者5研究・312名から統合された値だ。一方、睡眠ポリグラフによる総睡眠時間+25.47分は、ICUの騒音を模擬した環境で眠った健常者を対象にした3研究の統合であって、重症患者のデータではない。同レビュー自身が「3研究は模擬ICU環境で健常者を対象に行われた」と明記している。客観指標での改善が観察されたことには意味があるが、3研究・非盲検(アイマスクや耳栓を着けていることは本人に必ず分かる)という土台の上の数字だ。強い証拠として扱える規模ではない。しかも信頼区間は8分から43分まで開いている。
二つめは、介入が耳栓単独ではないこと。このレビューは一貫して「アイマスクと/または耳栓(eye masks and/or earplugs)」を介入として扱っており、統合値のうちどれだけが耳栓によるもので、どれだけがアイマスク(=光の遮断)によるものかは、この数字からは切り分けられない。耳栓の効果として読むことはできない。
同レビューはさらに、研究間の異質性が大きいこと、サンプルサイズが小さいこと、評価期間が短いことを限界として挙げている。
そして前提となる環境がそもそも特殊だ。モニターのアラーム音とスタッフの話し声が二十四時間続く場所(あるいはそれを模した実験室)で得られた数字を、自宅の寝室にそのまま持ち込むことはできない。伸びしろは、そもそもいまどれだけ音に起こされているかに依存する。睡眠まわりの整理はHSPの睡眠の質を上げる方法にも置いてある。
効き方には、はっきりした個人差がある
同じ環境にいても、音に参る度合いは人によってかなり違う。これは気のせいではなく、騒音感受性(noise sensitivity)として測定されてきた個人差だ。
Shepherdらが2015年に『Noise & Health』誌に発表した研究は、185名(女性112名・平均33.3歳、男性73名・平均34.3歳)を対象に、ビッグファイブ性格特性と騒音感受性の関係を調べている。結果として、ビッグファイブは騒音感受性の分散の33%を説明し、そのうち最も大きく寄与していたのが外向性—内向性の次元だった。感受性が高い人ほど、外向性が低い傾向にあった。
同論文の導入では、騒音に敏感とされる人の割合について、先行研究で20〜40%と幅があること、高い騒音感受性をもつ人はおよそ12%とする推定があることにも触れられている。推定に幅があること自体が、この概念の測り方がまだ揺れていることを示している。
数字の読み方には注意がいる。33%というのは、裏返せば残りの67%は性格以外の要因ということだ。しかも185名の単一研究で、参加者は一つの大学から集められている。性格から騒音感受性を予測できる、と言えるだけの精度はない。性格傾向の枠組み自体については外向性・内向性を、感受性の研究概念としての整理は感覚処理感受性を参照してほしい。
ここから先は私の受け取り方になるけれど、この研究の実用的な含みは「自分がどのタイプか」を知ることではないと思う。むしろ、同じ部屋にいる人と自分の体感がずれていても、それは不思議なことではない、という一点にある。「これくらい平気でしょ」と言われて自分を疑うのをやめるだけで、耳栓を机に置いておく心理的なハードルは、かなり下がる。
使うときに、私が気をつけていること
ここからは研究の話ではなく、実際に使ってみての段取りの話だ。
声を狙う。 上で見たとおり、成績を最も落としていたのは断続する会話音だった。だから低い唸り音を消す性能より、人の声の帯域が届かなくなるかどうかを基準にする。ノイズキャンセリングと物理的な耳栓は得意な音域が違うので、環境によって使い分けるほうが早い。
完全な無音を目指さない。 静かすぎると、今度は自分の耳鳴りや心音が気になる、という状態にもなる。私は環境音を小さく流したうえで耳を覆うことが多い。ただしこれは私のやり方で、研究の裏づけがある手順ではない。
外では使わない。 徒歩や自転車での移動中に耳をふさぐのは、単純に危ない。屋内・座って作業する場面に限っている。
寝るときに使うなら、聞こえなくなるものを先に確認する。 火災報知器、緊急地震速報、目覚まし。耳栓は音を選んで消してくれるわけではないので、必要な警報まで届かなくなる可能性がある。私は枕元の端末を振動にして併用している。
痛みや違和感が出たら中断する。 耳の穴に入れる道具である以上、合う合わないがある。かゆみ、痛み、聞こえの変化、耳鳴りが続くようなら、使用をやめて耳鼻咽喉科で相談してほしい。この記事は医学的な助言ではないし、聴覚の不調を判定するものでもない。
よくある質問(FAQ)
耳栓に集中力を上げる効果はありますか?
耳栓そのものを介入として集中力を測った研究は限られており、ここで紹介したメタ分析も耳栓の効果を検証したものではありません。SzalmaとHancockが2011年に発表したメタ分析(242研究・797効果量)が示したのは、騒音が遂行に与える影響のほうです。会話音は効果量 g = −0.43、とくに断続する会話音は −0.80 と、遂行成績を大きく落としていました(これは音の種類・鳴り方別の総合効果量で、正確さと速さを分けた値ではありません)。「その音が減れば戻る」という部分は推論であり、検証済みの事実ではありません。期待できる方向は示されているものの、断定はできない、というのが正確な言い方になります。
どんな音がいちばん集中の邪魔になるのですか?
SzalmaとHancockのメタ分析では、音の種類による差が明確でした。会話音の効果量が g = −0.43(95%信頼区間 −0.56〜−0.30)だったのに対し、会話以外の音は −0.16 にとどまっています。さらに鳴り方と組み合わせると、断続する会話音が −0.80(−0.97〜−0.63)と、この組み合わせ別の分析のなかで最も大きい負の効果を示しました。連続する非会話音は −0.24 で、断続する非会話音は信頼区間がゼロを含んでいます。空調の唸りのような一定の音より、途切れながら聞こえてくる人の声のほうが、成績への影響は大きく出ていました。
耳栓をすると本当によく眠れるようになりますか?
Karimiらが2021年に発表した系統的レビュー・メタ分析(35研究・2,687名、うち21研究をメタ分析)では、アイマスクと/または耳栓の使用によりPSQIが5.02点改善(95%信頼区間 −6.16〜−3.89、5研究312名)、睡眠ポリグラフでは総睡眠時間が25.47分増加(8.05〜42.90分)と報告されています。ただし読み方に二つ注意が要ります。第一に、この睡眠ポリグラフの値は重症患者ではなく、ICUの騒音を模擬した環境で眠った健常者3研究の統合です。第二に、介入は「アイマスクと/または耳栓」であり、耳栓単独の寄与は切り分けられていません。同レビューも研究間の異質性やサンプルサイズの小ささ、評価期間の短さを限界に挙げています。この数字を一般家庭の寝室にそのまま当てはめることはできません。効果の大きさは、いまどれだけ音に睡眠を妨げられているかによって変わります。
音に敏感なのは性格と関係がありますか?
Shepherdらが2015年に発表した研究(185名)では、ビッグファイブ性格特性が騒音感受性の分散の33%を説明し、外向性—内向性の次元が最も大きく寄与していました。感受性が高い人ほど外向性が低い傾向です。ただし残る67%は性格以外の要因によるもので、単一の大学から集められた185名の研究であることも踏まえる必要があります。性格から騒音への強さを判定できる段階ではありません。同論文の導入では、騒音に敏感とされる人の割合の推定に20〜40%という幅があることにも触れられています。
ノイズキャンセリングと耳栓はどちらがいいですか?
両者を直接比較して優劣を示した信頼できる統合データを、今回の調査では見つけられませんでした。したがってここでの答えは、研究の裏づけではなく整理の提案になります。メタ分析の「音の種類 × 鳴り方」の分析で最も大きい負の効果を示したのは断続する会話音でしたから、選ぶときの基準を「表示された遮音値の大きさ」から「人の声が届かなくなるか」に置き換えると、判断はしやすくなります。オープンプランオフィスの調査でヘッドホン類が主な対処になっていたのも、閉じられるドアがない環境では耳の側で塞ぐしかない、という事情を映していると読めます。
耳栓を初めて机に出したとき、少しだけ気まずかったのを覚えている。「そんなにうるさいかな」と言われる気がして。
いま思えば、あの気まずさは音の問題ではなく、必要としていることを人に見せる話だった。研究のほうは、途切れながら聞こえる人の声がとりわけ成績を削ることを、淡々と数字で並べている。感じ方に個人差があることも、数字として残っている。それを知ったからといって静かになるわけではないけれど、耳をふさぐ理由を自分に説明できるようにはなった。