新しく出た店にはつい入りたくなるし、旅行の計画を立てているときはワクワクが止まらない。なのに、いざ賑やかな場所へ出かけた翌日は、布団から出られないほどぐったりしている。この「求めるのに、疲れる」ちぐはぐさを、私は長いあいだ持て余してきた。

そんな自分にHSS型HSPやエンパスという名前があると知ったとき、正直ほっとした。ばらばらだった感覚に、輪郭が与えられた気がしたからだ。でも、言葉がしっくりくることと、その言葉に科学的な裏づけがあることは、別の話でもある。ここでは、感じている実感は大事にしたまま、研究が何を示し、何を示していないのかを整理していく。HSPそのものの基本はHSPとは?わかりやすく特徴と付き合い方を解説にまとめている。

「HSS型HSP」「エンパス」はどこから来た言葉か

まず、言葉の出どころから。

  • HSS型HSPは、刺激追求(High Sensation Seeking)とHSP(感覚処理感受性)という二つの特性を掛け合わせた呼び方です。刺激追求は心理学者マーヴィン・ザッカーマンが、HSPはエレイン・アーロンが提唱した、別々の研究系譜を持つ概念です。→ 刺激追求傾向とは
  • エンパス(empath)は、他者の感情を自分のもののように受け取る特別な人、という意味で使われる言葉で、セルフヘルプ書やスピリチュアル系の発信から広まりました。

ここで押さえておきたい。「HSS型HSP」も「エンパス」も、査読を経た研究で確立された診断カテゴリーではない。学術の世界にあるのは「刺激追求」「感覚処理感受性」「共感」という、それぞれ測定尺度を持つ個別の特性であって、それらを足し合わせた「タイプ名」ではない。名前は流通しているけれど、その名前を裏づける公式な箱は、じつはまだ存在しないのだ。

事実:刺激追求と感覚処理感受性は「別々の特性」

「刺激を求めるのに刺激に弱い」という組み合わせは、研究上どう扱われているのか。

刺激追求は、新奇で強烈な経験を求める傾向として、ザッカーマンが専用の質問紙とともに研究してきました(Zuckerman, 1994)。一方の感覚処理感受性(SPS)は、刺激を深く処理し圧倒されやすい気質として、アーロンらが別の尺度で測定してきました(Aron & Aron, 1997)。出発点からして、両者は独立した特性次元として扱われています。

では、この二つはどう関係するのか。214名を対象にした研究(Acevedo et al., 2023)は、標準的なSPS尺度と刺激追求尺度のあいだに中程度の負の相関(神経症傾向を統制してr = −0.39)を報告しました。ざっくり言えば、感受性が高い人はやや刺激追求が低め、という程度の傾き。ただし著者らは、この相関は「二つが単なる正反対だと言えるほど強くはない」と述べています。実際、刺激追求が高い人の上位半数のうち約25%は、感受性も高いグループに入っていました。

だから「求めるのに疲れる」という実感に対応する状態——どちらも高め——は、確かに存在しうる。矛盾しているようで、矛盾していない。ただしそれは連続的な個人差の重なりであって、固定した「タイプ」ではない。念のため書き添えておくと、これは一つの研究の知見であり、結論を急ぐべきものではありません。→ 感覚処理感受性とは

事実:「6%」「4タイプ」という数字の出どころ

ネット上ではよく、HSPを「HSP/HSS型HSP/HSE/HSS型HSE」の4タイプに分け、HSS型HSPは全人口の約6%、という説明が見られます。

でも、この6%という数値や4分類のもとになる査読研究は、見当たらない。感受性の研究では、人を4つの箱に割り振るより、低・中・高の連続体として捉える見方が主流です(先ほどの研究でも、感受性はおおよそ3割・4割・3割の低・中・高グループに区分されています)。きれいに割り切れる「6%・4タイプ」は、研究の結論というより、わかりやすく整えられた通俗的な図式だと考えたほうがいい。数字が具体的だと本物っぽく見える、その錯覚には私も何度も乗せられてきた。

事実:「エンパス」は科学的な概念か

結論から言うと、「エンパス」は学術用語ではありません。研究の世界で測定・検討されているのは「共感(empathy)」や「情動伝染(emotional contagion)」といった、誰にでも程度差のある心の働きです。

しかも共感という概念自体、一枚岩ではない。43の定義を整理したレビュー(Cuff et al., 2016)は、研究者間でも合意した単一の定義が存在しないと報告しています。認知的共感と情動的共感を分ける枠組みはありますが、脳画像でも両者は「部分的に異なる傾向」が示される程度で、明確に分離した回路とは断定されていません。

一般に語られる「感情エンパス・身体エンパス・直感エンパス」といった下位分類も、セルフヘルプ書由来で、査読研究に基づくものではありません。他者の感情を強く受け取る実感は、多くの人にとってまぎれもなくリアルです。ただ、それを「特別な気質」として切り出す科学的根拠は、いまのところ確立していない。実感は本物でも、ラベルの科学性はまた別、ということです。→ 共感(エンパシー)とは

ここから先は、私の受け取り方

ここまでは研究が示していることの整理だった。ここから先は解釈になる。

では、なぜこれらのラベルはこんなにも「しっくりくる」のか。おそらく、その土台にある実感——新しいものに惹かれるのに疲れてしまう、人の気持ちを受け取りすぎてしまう——が、確かに存在するからだと思う。名前が与えられ、同じ言葉を使う人とつながれることには、大きな救いがある。私自身、その救いを実感した側だ。

一方で、引っかかることもある。HSPという概念そのものが、学術的に確立した診断ではなく、いまも係争中のテーマだ。研究者の飯村周平氏は、HSPが「切り分ける基準が決まっていない」まま消費され、自己ラベル化が視野を狭めたり、専門性の不確かな高額サービスにつながったりする危うさを指摘しています(SYNODOS, 2023)。HSPの上に積み重ねた「派生タイプ」は、土台よりさらに薄い根拠の上に立っている、とも言える。

だから私は、これらの言葉を「自分はこのタイプだ」という確定した判定ではなく、自分を観察するためのゆるい手がかりとして持っておくくらいがちょうどいいと思っている。ラベルを言い切ることより、自分が何に惹かれ、何に消耗するのかを具体的に知っていくことのほうが、生活はずっと動かしやすくなる。

刺激と休息のあいだで揺れる感覚

そのうえで、これまで語られてきた工夫のいくつかは、試してみる価値があると思う(効果を保証するものではなく、あくまで一つの提案として)。

  • 刺激の「質」を分けてみる:同じ刺激でも、心地よいものと消耗するものがある。少人数の会話は楽しめても、大人数の場だと一気に消耗する、というように。
  • 回復の時間を先に予定へ入れる:活動的に動いた翌日を、意識して空けておく。私はこれをやるようになってから、消耗と回復のリズムがだいぶ取りやすくなった。
  • 「完了」より「体験」を大事にする:続かなくても、体験そのものに価値を置いてみる。幅広い関心は、それ自体が持ち味になりえます。

よくある質問(FAQ)

Q. HSS型HSPは正式な診断名ですか?

いいえ。HSS型HSPは、刺激追求と感覚処理感受性を組み合わせた通俗的な呼び名で、査読研究で確立された診断カテゴリーではありません。そもそもHSP自体が医学的な診断ではなく、気質の個人差を指す言葉として扱われています。

Q. 自分がHSS型HSPかどうか、どうすれば確かめられますか?

「あなたはHSS型HSPです」と判定できる公式な基準はなく、この記事でも判定はしていません。感受性も刺激追求も、あるかないかの二択ではなく程度の問題(連続体)だと考えられています。ラベルを当てはめるより、自分がどんな場面で惹かれ、どんな場面で消耗するかを書き留めるほうが、実生活には役立ちます。HSP診断テスト(無料セルフチェック)も、判定ではなく自己観察の道具として使ってみてください。

Q. エンパスとHSPは何が違うのですか?

学術的には、どちらも明確に線引きされた「タイプ」として確立しているわけではありません。研究で扱われるのは共感や情動伝染という、程度差のある働きです。「察する/体感する」という説明は理解を助けますが、科学的に区別が証明されたわけではありません。

Q. 刺激を求めるのに疲れやすいのは、矛盾していておかしいのでしょうか?

おかしなことではありません。研究上も、刺激追求と感覚処理感受性はどちらも高い状態が共存しうると報告されています(Acevedo et al., 2023)。相反するように感じる二つの傾向を同時に持つことは、個人差の一つのあり方です。

Q. 気質のことで生活がつらいときは、どうすればいいですか?

気質は病気ではありませんが、不眠・強い不安・気分の落ち込みなどが続き、日常生活に支障が出ている場合は、別の要因が関わっていることもあります。ひとりで抱え込まず、医療機関や公的な相談窓口(厚生労働省「こころの耳」など)に相談してみてください。


この記事は、ShyBaseの2026年7月11日の編集方針改定(出典主義)に伴い、旧「HSS型HSP」記事とエンパス記事を統合し、派生タイプの科学的根拠を検証する内容へ全面的に書き改めたものです。