後輩の投稿に「いいね」を押して、アプリを閉じた。閉じたのに、頭のなかでは比較が続いている。指は止められても、勝手に始まった計算は止まらない。あの感覚に名前があるとしたら、たぶん「社会的比較」だ。

人と比べてしまう自分を、意志が弱いせいだと片づけたくなる。でも研究を読むと、どうもそういう作りになっていない。比較は「やめられる行為」ではなく「起きてしまう傾向」として測られてきた。

人は、脅かされていなくても「上」を選ぶ

社会的比較の研究は1950年代の理論を起点に60年以上積み上がっている。その全体をならしたのが、Gerber、Wheeler、Suls による2018年のメタ分析だ(Psychological Bulletin 144巻2号177-197頁)。彼らは研究を2種類に分けている。誰と比べるかを選ぶ研究(選択)と、比べたあと何が起きるかを見る研究(反応)だ。

選択のほうから。上と下の2択を提示した研究では、脅威のない条件で上方比較——自分より優れている相手を選ぶ傾向——が強く出た。この結果には出版バイアスの証拠がなかった。しかも脅威を与えられた条件でさえ、「下方比較が優勢な選択になる」という証拠は得られていない。自分より下を見て安心する、という筋書きは、このデータの並びでは支持されていない。ただし横並びの相手という第三の選択肢を加えると、選好の差ははっきりしなくなる。

比べたあとに起きるのは、たいてい「対比」

反応のほうは、もっと身も蓋もない。

このメタ分析では、対比(コントラスト)が圧倒的に優勢な反応だった。対比とは、相手との差が際立って自己評価が押し下げられる方向の反応を指す。とくに強く影響を受けたのは能力に関する自己評価で、参加者の立ち位置を操作した比較の効果推定値は能力で-0.75〜-0.65、感情で-0.83〜-0.65。目新しい個人属性を扱った比較でも、能力で-0.5〜-0.6、感情で-0.6〜-0.7の範囲だった。

反対の反応、つまり相手の優秀さを自分に取り込んで奮い立つ「同化」も、起きないわけではない。ただしメタ分析では、類似性を意識させる操作による同化効果は非常に弱く、出版バイアスの推定方法によって結果が揺れた。

そして統制群を置いた研究では、上方ターゲットへの反応も下方ターゲットへの反応も、大きさは同程度で、どちらも対比的だった。

著者ら自身が論文の最後に、未解決の問いとしてこう置いている——もっとも起こりやすい結果が自分を萎ませる対比なのに、なぜ人は上を選ぶのか。60年分を集めてもまだ、そこは説明しきれていない。

この一文を読んだとき、少し肩の力が抜けた。研究者ですら答えを持っていない選び方を、自分の性格の欠陥として引き受けなくてもいいのかもしれない。

社会的比較の研究が示すもの——選択は「上」に偏り、反応は「対比」に偏る

SNSの上方比較は、何と、どのくらい結びついているか

では、タイムラインの上での比較はどうか。

Lei、Hu、Sun、Zheng は2026年、オンライン上での上方社会的比較と心理的不適応の関連をメタ分析している(Frontiers in Psychology)。54の独立サンプルから94の効果量を集め、合計36,583人分のデータを3水準ランダム効果モデルで統合したものだ。

全体の平均相関は r = 0.330(95%信頼区間 0.289–0.370)。この全体値は、自尊感情とウェルビーイングの効果量を「不適応の方向」に符号を揃えたうえで統合したものだ。指標ごとに分けると、次のようになっていた(それぞれ研究数の異なる別々のモデルによる推定値)。

  • 社会的評価にまつわるネガティブ感情:0.458
  • 不安:0.380
  • 抑うつ:0.268
  • ウェルビーイング:-0.310
  • 自尊感情:-0.251

いちばん強く結びついていたのは「抑うつ」ではなく、人からどう見られるかに関わるネガティブ感情だった。恥ずかしさ、劣等感、居心地の悪さ。あの、投稿を見た直後の数秒に走るやつだ。

年齢・文化圏・データを取った年という3つの調整変数はいずれも有意でなく、横断研究と縦断研究のあいだにも有意差は出ていない。

この数字を、どこまで読んでいいか

大事な留保がいくつかある。

第一に、含まれた研究の多くが横断デザインで、因果は言えない。著者らも相互的なパターン——落ち込んでいるときほど上を見に行き、上を見るとさらに落ち込む——の可能性を残している。第二に、文化のコーディングが「西洋/東洋」という粗い二分で、日本の文脈にどこまで当てはまるかはこの解像度では分からない。第三に、研究間の異質性が大きい。平均が0.33でも、効き方の幅は相当にある。

だから「SNSをやめれば解決する」とも、このメタ分析だけからは言い切れない。言えるのは、上方比較という体験が、しんどさの指標と一貫して一緒に動いているということまでだ。

ここから先は私の読み方だが——測られているのは「SNSの利用時間」ではなく「上方比較をどれだけ経験したか」である。同じ30分でも、何を見て何が起きたかで話が変わる。

他人の落ち込みは、そもそも見えていない

タイムラインが比較を歪めるのは、アルゴリズムのせいだけではないと思う。もっと手前に、人間の推定そのもののクセがある。

Jordan らは2011年、4つの研究でこれを検証した(Personality and Social Psychology Bulletin 37巻1号120-135頁)。

  • 研究1a:人は、自分のネガティブな感情はポジティブな感情よりも「人に見せていない・隠している」と報告した
  • 研究1b:そのうえで、同世代の仲間がネガティブな経験をする頻度を過小に見積もった。ポジティブな経験については、同じような過小推定は起きなかった
  • 研究2:よく知っている相手についてさえ、ネガティブ感情を少なく、ポジティブ感情を多く見積もった。この効果は、その相手が「ネガティブ感情を抑えている」と自己報告した程度によって部分的に説明された
  • 研究3:ネガティブな感情経験の頻度を低く見積もる人ほど、孤独感と反すうが強く、生活満足度が低かった

著者らのまとめは、人は自分の感情的な苦しさについて、実際よりも「自分だけだ」と思い込んでいる可能性がある、というものだ。

ただし研究3は相関的な知見で、過小推定が孤独を生むのか孤独が過小推定を招くのか、この設計では分けられない。

それでも、この結果とSNSの構造を重ねると見えるものはある。誰も「今日、会議で詰められて帰りの電車で泣いた」を投稿しない。私も投稿しない。投稿されないものは分母から消え、比較の相手は編集済みの上澄みだけで構成される。

「比べない」より、たぶん現実的なこと

ここからは研究のまとめではなく、私が実際にやってみて多少ましだったことの話だ。

比較そのものを止めにいかない。 Gerber らのメタ分析が示すのは、上を選ぶ傾向の頑健さだった。意志で消しにいく相手としては分が悪い。それより比較が起きる「入力」を減らすほうが手がある。誰の投稿を見た直後に胃が重くなるかは、何日か観察すれば自分で分かる。ミュートは敗北ではなく、単なる入力調整だと思っている。

分母を思い出す。 Jordan らの知見は実務的にはこう使える——見えている投稿の裏に、投稿されなかった夜が同じ数だけある。慰めではなく、推定の補正として。

自分の過去と比べる。 ただし時間的比較が上方比較の害を減らすかどうかは、ここで挙げた3本の研究が直接検証したものではない。私の運用上の工夫であって、研究の結論ではない。

自己評価そのものが揺れやすいと感じているなら内向型の自己肯定感が低い原因と高め方を、SNSとの距離のとり方はHSPのSNS疲れ対策内向型のためのSNS発信術で扱っています。

なお、人の目が気になる状態が生活の広い範囲に及ぶ場合は、社交不安という別の枠組みで整理されることがあります。注意の向け先を扱う技法としてはマインドフルネスの研究蓄積もありますが、効果の大きさをめぐる議論が続いている領域です。

つらさが続くときは、比較の問題として抱えこまない

上方比較としんどさが結びつくという知見は、集団レベルの平均の話だ。眠れない、食欲が落ちた、朝が起きられない、以前は楽しめたことが楽しめない——そうした状態が2週間以上続いているなら、「比べ方を工夫する」で扱う範囲を超えている。

厚生労働省のこころの耳には、働く人向けの相談窓口と地域の医療機関を探す導線がまとまっている。産業医や社内の相談窓口があるなら、そちらのほうが早いこともある。

よくある質問(FAQ)

人と比べるのをやめる方法はありますか

「完全にやめる」を目標にした方法は、私が調べた範囲では研究で支持されていません。Gerber らのメタ分析は、脅威のない状況でも上方比較が選ばれやすいことを示しており、比較は意志で消せる行為というより起きやすい傾向として測られています。現実的なのは、比較が起きる入力(誰の何を見るか)と、起きたあとの解釈を調整することです。

SNSをやめれば比べなくなりますか

2026年のメタ分析が測っているのは「SNSの利用時間」ではなく「オンラインで上方比較をどれだけ経験したか」です。したがって、やめれば解決するとも、やめる必要があるとも、このデータからは言えません。また含まれた研究の多くは横断デザインで、因果の方向は決まっていません。落ち込んでいるときほど上方比較をしやすい、という逆向きの流れも残されています。

上を見ることがモチベーションになることもあるのでは

あります。ただし頻度の問題です。Gerber らのメタ分析では、相手の優秀さを自分に取り込む「同化」の効果は、類似性を意識させた条件で確認されたものの非常に弱く、統計的な調整方法によって結果が揺れました。全体としては対比が優勢です。奮い立つことがある、と、たいてい奮い立つ、は違います。

落ち込みが続くとき、どこに相談すればいいですか

厚生労働省のこころの耳に、電話・SNS相談の窓口と医療機関の探し方がまとまっています。勤務先に産業医や相談窓口があれば、そちらも使えます。眠れない・食べられない・朝起きられないといった生活面の変化が2週間以上続く場合は、早めに専門家へ。